薄墨

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晩秋を厳しく吹き抜ける風は、いつだって気味の悪い面倒ごとを持ってくる。
そういうことを知ったのは、私が醜くて冴えない、不細工で自意識過剰な思春期の中学生の頃のことだった。

その日は風が強かった。
私は頼まれた特別教室の掃除を、できるだけサボりながらテキトーに、ダラダラとこなした。
その頃の私は、自分の低いカーストや友人などの現状にだいぶ飽き飽きしていて、自分は特別だと決めつける肥大化した自意識を守るため、一人で行動することが増えていた。
だからこの日も、できるだけ時間をかけて、クラスで一人、ダラダラと時間を潰すことに努めた。

ダラダラと掃除を終え、ダラダラとクラスに帰ると、教室は私を閉め出して、なにやら担任が話していた。
普段は、掃除と放課後の間は、休み時間のような微妙な空白の数分があるのだけれど、今日に限って、その時間を先生が使いたかったようだ。
立ち歩いたり、ふざけたりして見せるのは、上位カーストのお調子者くらいで、あとは皆、授業中のように席に座っていた。

その中に踏み込んでいく勇気を出すのも億劫だった私は、廊下を引き返すことにした。
サボって、保健室にいたことにしよう、そう思った私は保健室へ向かった。

その途中で、廊下に人だかりを発見した。
そして、友人が、先生に根掘り葉掘り聞かれていた。

私はこの友人が嫌いだった。
同族嫌悪みたいなものだ。私も友人も、野暮ったくて、カースト下位なのに、自分は特別だと思い込んでいるバカだった。
それなのに、彼女ときたら「紅茶部」なんて、勘違いも甚だしいような部活で活動していた。
それで、私はいっそう、その友人が嫌いだった。

彼女は、私を見て鋭く目を光らせ、私に話しかけてきた。
強引に、私を引き込むことで先生を振り切ることに成功した友人は、今日の紅茶部の紅茶会に誘ってきた。
数分後、私は友人と共に保健室にいた。
紅茶部は、めちゃくちゃなことに、顧問が養護教諭だったことを思い出しながら、私は甘ったるい茶菓子に口をつけた。

保健室は忙しそうだった。
さっきのあの人だかりの先の友人の教室で、どうやら事故があったようだった。
私たちよりは確実に楽しい学校生活を送っているような生徒たちが、担架で、保健室に運び込まれていた。

こういう時でも私は特別に、「部室」に入れてもらえるのだ、と、友人は得意そうに言った。
私は黙って紅茶を啜った。
そういう傲慢さが私は嫌いだった。
自分にも身に覚えがあるから、余計に。

ふざけていた男子生徒が、落ちたのだ、と友人は説明した。
あの廊下の先には、確かに友人のクラスの教室があった。
窓を開けていたら、風が吹きつけてきて、それで近くにいた男子が落ちたのだ。あの顔が整っていて、勉強もスポーツもできる私の憧れのあの〇〇くんが、と友人は言い募った。

風が吹きつけてきたのなら、男子生徒は外へは落ちないはずだ。なぜなら、風は窓から入ってくるのだから。
教室内に転倒するはずだ、と私は思って、浅ましい友人が余計に嫌になったが、私は黙って紅茶を啜った。

換気のために隙間ばかり開けられた窓から、風が吹き抜けていった。
友人は、甘ったるい茶菓子を齧り、貪りながら、上品のひったくれもなく、話続けていた。

11/19/2025, 10:38:05 PM