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天国と地獄

 ああ偉大なる王よ、お助けを。
 シルクに包まり、子羊の肉を喰らい、贅を持て余せし王よ。
 この我に救いを。

「爺さん、また変な祈り捧げてんのか?」

「ああミシェル、可哀想なミシェル、どうしたんだい」

「爺さんに伝言を届けに来た。 置いたから、じゃあな」

 ミシェルは薄汚れた紙切れを机に置き、出ていった。
 皺まみれの手で紙切れを手に取った。
 裏面の焼印から察するに、聖職者の寄せ集めの組合からだろう。

「『過去からは逃れられない』? ……偉大なる王、偉大なる王よ……私の罪は、貴方が為の……!!」

 ああ忌々しい王子よ、裁かれよ。
 血に溺れ、火を喰らい、負債に生まれし王子よ。
 この我に復讐を。

 地に這い、偉大なる王の元で忙しなく国に尽くした日々を思い出す。
 黄金の城と白銀の騎士が地の果てまでを征服したあの日々を。
 右腕として執政に携わり、卜者として占いをし、聖職者として信仰を広めた。
 だが偉大なる王と、見目麗しき女王から生まれた王子は悪魔に取り憑かれていた。
 王子が成長し、次代の王として戴冠するあの昼下がり、彼は暴虐の限りを尽くした。
 
「お爺様、"悪魔"の巡回がそろそろですわ。 ほら、早く地下室へ行きましょ」

「アンナ……わかっとる」

 王子は城を乗っ取り、一夜にして城下町を、一日にして国を地獄へと一変させた。
 紫紺の城と黒曜石の騎士が国を支配する時代へと変貌させてしまったのだ。
 ああ忌々しい。
 やつのいる城は、やつにとっては天国だろう。
 だが、私にとっては城も国も時代も地獄としか言いようがない。

「ああ、アンナ」

「はい、いかがなさいましたか?」

「この地獄はいつになったら終わる?」

「……"天国"が地獄になれば、地獄と表現せずに終わりますよ」
 

5/27/2024, 2:34:45 PM