かたいなか

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「『ダメ。そこへ行かないで』と、
『私はAには行かないで、Bに行きました』と、
『豪雨だったらしい。行かないで良かった』と?
他には『今行かないで、いつ行くの』とか?」
「行かないで」っぽいの、昨日、まさしく書いたばっかりなんだが。
スマホの通知画面、今回の題目の5文字を見て、某所在住物書きは頭をガリガリかいて天井を見上げた。
所詮、前回投稿分は既に他者の作品に埋もれ、誰の目にも見えなくなっているだろう。

前回分コピペしようか、ズルできようか、無理か。
「続編モドキ程度は許容範囲よな?」
再度、ため息。物書きは昨日の文章を読み返す。
「なんで今日じゃなく昨日あのネタ書いたし……」

――――――

雪国出身っていう職場の先輩が、珍しく、私用で有給をとった。
あの、ザ・仕事人間で手料理美味しい先輩が、
有給なんて、体調不良とか新人ちゃんのメンタル対応とか、ある程度納得せざるを得ない事情と理由ばっかりだった先輩が、
初めて、突然、ただ単純に、
「まぁ色々ありまして(要約)」で休んだ。

何かある。何か隠してる。
先輩のことが気になって、きっとココに居るだろうって場所を探し回って、
結果、「低糖質ケーキが美味いから」って今年の3月1日に連れてってもらったオープンカフェで、青空見上げながらコーヒー飲んでるのを見つけた。

何かを、諦めてそうな、決心したような顔には、心当たりがある。恋愛トラブルだ。
8年前、先輩は解釈押しつけ厨に恋して、恋人さんに勝手に自分を解釈されて、勝手に解釈不一致認定されて、それが原因でバチクソ傷ついちゃって、
それで、縁切って8年逃げ続けてきたらしいけど、
今年の8月9月でその元恋人さんが、何度も職場に押し掛けてきて、会わせろ話をさせろって大迷惑。
職場への迷惑の、責任感じちゃった先輩は、最近自分のアパートの家具やら家電やらを、整理し始めた。
東京離れて、田舎に帰っちゃうつもりだ。

ダメだと思った。
別に先輩に恋してるとか、そっち系じゃないけど、恋人の迷惑の責任を先輩がとる必要は無いと思った。

「ねぇ先輩。ダメだよ。行っちゃダメ」

「私がこのまま居続けたところで、お前や職場に、無駄な面倒を撒き散らすだけだ」
私を見る先輩は、相変わらず、諦めだの決心だのにグラついた目をしてた。
「今はまだ、出禁宣告の効果で大丈夫かもしれない。来月も問題無いかもしれない。ひょっとしたら、もしかしたら。……それでもあのひとは、加元さんは、酷く執念深いから」
不確定不確実なリスクは、先に撤去しておいた方が、誰も傷つけないし私も傷つかない。
先輩はコーヒーを飲み干して、キューブケーキの最後のひとくちを口に入れて、

「無駄な面倒撒き散らしてるの、先輩じゃなくて向こうでしょ?」
席を離れてカフェから出ようとしたところを、私に腕掴まれて、立ち止まった。
「行かないで先輩、解釈押しつけ厨に負けちゃダメ。先輩は先輩が公式で、他は全部二次なんだから、アンチが何言おうと、聞いちゃダメ」

「……」
行かないで。まだ、東京にいて。
それでまた私に美味しい低糖質料理作って。
ぽつり言う私の目を、先輩はただ、困惑の表情でじっと見てる。
「あの、」
先輩が、重い口を開いて言った。
「その、……語句の解説を、頼んでも良いか?」

「あ、」
そうだった。
珍しくカッコイイことを、スッパリ言えた気でいた私は、思い出した。
そうだ。先輩、二次もアンチも、知らない人種だ。
「えーと、つまり、まず押し付け厨ってのが……」

10/24/2023, 1:29:42 PM