リンゼン ハヤト

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私は現代の奴隷である。高くもない金の為に企業に隷属し、帰ればベッドに沈むだけの毎日を送る奴隷だ。定時という概念が壊れた現代において私のような人間は少なくないだろう。定時退勤は悪、サービス残業は正義である。
ふと、机を見ると昔集めていたアニメのフィギュアが並んでいた。どれもこれも埃が積もっているが掃除をする気にもならない。最近は飯も喉を通らなくなっており、こんな私の図体を見て幻滅したであろう恋人も逃げたところだ。
私の心の底にある灯はもう、とうに尽きているのだろう。何事への興味も見いだせず、そこにのさばっているだけなのだから。ポツポツと火が消えていき、残っているのは無駄な義務感だけだ。生きているか死んでいるか分からないならば、いっそ首を括った方がいいのではないか、延長コードまあるし、とぼんやり物思いに耽ったその時だ。にゃあ、と何かが鳴いた。
「………」
猫だ。昨日出て行った恋人が置いていった、灰色の猫。私はその雄猫の名を呼んだことはなかった。ふてぶてしい顔をして、餌の皿の前に座っている。飯か。そういえば数日あげた覚えがない。放ってもいいかと思ったが猫を心中に誘うほど落ちぶれてもいない。台所の隅からキャットフードを取り、皿に盛ってやった。脇目も振らずに皿に顔を寄せる姿、生への渇望。私とはまるで正反対だ。
「……お前が死ぬまでは生きてようかな」
火が灯った。他のどの灯りよりも、明るく暖かい。猫はまた、にゃあと鳴いた。

心の灯火

9/3/2024, 8:47:09 AM