かたいなか

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「『幸せとは』……だろう?
『幸せと、はらいっぱい』とか、『幸せと、はなむけの言葉』とか、『幸せと、はるの気配』とか、書けそうだな、 とは思ったんよ」
実際13時頃に、「幸せと、はないっぱい」で1400字くらい書いてたんよ。某所在住物書きは投稿時刻が15時になった言い訳を始めた。

「登場人物の、AとBが、妙なチートアイテムで、過去の都内某所に飛ばされて、そこが本当は『さいわいの白百合畑』って呼ばれてたのに、人間によって踏み荒らされて、街に作り変えられちまうっていう。
……なんか違うなって」
結局そっから全部書き直してこの時間よ。
ため息ひとつ吐いて、物書きは呟いた。
「しあわせって難しいな」

――――――

最近最近のおはなしです。都内某所某稲荷神社の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。

いつか修行を全部終えて、稲荷の神様に神使として認められて、神様から「神使としての名前」を授かるのが子狐の幸せ……というのは建前で、
ぶっちゃけ、お母さん狐のごはんをいっぱい食べて、お父さん狐にいっぱい遊んでもらって、
それからそれから、修行の一環として売り歩いている稲荷のお餅がいっぱい売れて、お得意様におなかを撫でてもらえれば、
コンコン子狐、それで幸せいっぱいなのでした。

さて。
今日のコンコン子狐は、新しく取引先となった職場に正式に呼ばれまして、とってって、ちってって。
頼まれたお餅をどっさり仕込んで、新年最初の餅売り営業。脂肪燃焼効果が期待できる狐の薬膳をふんだんに使った惣菜お餅が飛ぶように売れます。

「キツネのおもち!いかがですか!」
ところで皆さん、去年の最後に会った時より、ちょっとぷっくり、いえなんでもありません。
「ごりやく、いっぱい!おもち、いかがですか!」
ぽっこりおなかは、幸せの証拠なのです。
幸せとは、子狐にとって、そういうものなのです。
「まいど、まいど」
さぁ、そろそろ、この取引先の一番の上客様のもとへ向かいましょう。 経理部のコタツとミカンのあるじ様、スフィンクスというビジネスネームの女性のもとへ向かいましょう。

「まいど、まいど!ミカンのおばちゃん!」
最後にコンコン子狐が、お餅の営業をかけたのは、
経理部の一角にあるコタツです。
コタツとミカンのあるじ。スフィンクスというビジネスネームのコタツムリです。
「ミカンのおもち、いかがですか!」

「おう。誰かと思えば、ゆたんぽじゃねえか」
コタツムリのスフィンクス、今年も相変わらず子狐を、モフモフ湯たんぽ呼ばわりです。
「今年も俺様に、ミカンの餅を献上しに来るとは。
感心感心。うむ、くるしゅーないぞー」
ところでスフィンクスのコタツで、いっしょにコタツムリしてるお友達さん、
ドワーフホトといいますが、色々、随分、熱心にお仕事してますね……?

「うぅ……みんな、私達に頼り過ぎぃ……」
なかば虚ろ目、なかば涙目のドワーフホトは、ぽんぽんぽん、ポンポンポン。
タブレット端末をスワイプしてタップして、またスワイプしてタップしてを、
ずっと、ずっと、繰り返しておりました。
「却下です、申請理由が不純、却下でぇすぅ……」

コンコン。ねぇねぇ、ミカンのおばちゃん。
おねえちゃんは、いったい、どうしたの。
「ウチの管理局に収蔵されてるダイエットアイテムの、貸出し申請の処理だとよ」
コンコン。だいえっとあいてむ、なんで?
「年末年始でみんな食い過ぎて、『どうせダイエットのチートアイテム使えば帳消しだろ』って、
収蔵課の、そっち系アイテムを片っ端から調べて、『こういう理由で今すぐ必要なんです』って。
あんまり申請が多いもんだから、俺様が開発した却下用のボットまで駆り出されてるぜ」

たべれば、おなかポッコリ。しあわせ。こやん。
「おなかポッコリで、不幸になるやつが多いの」
なんで、なんで?こやん。
「多分おめーも大人になりゃ分かる」
わかんないもん。なんで、なんで?こやこや。
「それより餅よこせ。例の脂肪燃焼効果が期待できる食材がたっぷり入ってるやつ」

餅売りコンコン子狐、疑問いっぱいで首をこっくり傾けて、だけどお餅が売れましたので、尻尾をビタビタ振り回します。
「1にち、1コをめやすにたべて、イッシューカンくらいでコーカがでます」
子狐がお父さん狐からもらった「説明書」を、一生懸命読みますと、
じゃあ俺様とホトの分とで14個、長期保存できるタイプのを寄越せとスフィンクス。

しめてガッポリ、大繁盛。
「まいど、まいど!」
コンコン子狐は幸せに、持ってきたお餅を全部空っぽにして、自分のお家に帰ってゆきましたとさ。
おしまい、おしまい。

1/5/2025, 6:15:34 AM