8木ラ1

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彼女はマフラーで頬を撫でながら言う。
「どう、似合う?」
その笑顔が凄く嬉しそうで、こちらも思わず笑ってしまう。こんなに喜んでくれるなら来年は指輪でも贈ろうか。
そんな事を考えていると、彼女から箱を差し出された。
「これ、私からもあげる!」
お礼を言うと、照れているのか彼女の顔は赤く帯びていた。微笑ましく思いながらも箱を開ける。
すると入っていたのは宝石が一つついたネックレス。
その宝石は透明がかった青色で、まるで涙のように綺麗だった。
「それ"アクアマリン"って言う宝石なんだ」
宝石に詳しくない自分は首を傾げる。彼女もたいして宝石には詳しくないはずだ。頭にはてなを浮かべる僕に、彼女は「ふふん」と自慢げに笑った。
「この日の為にたくさん調べたんだよ、恋人同士に幸福をもたらすんだって!」
柔らかいその笑顔に僕は凄く嬉しかった。勢いよく抱きしめて彼女に愛を伝えようとする。
「真奈、愛し──


─夢が途切れる。
目の前には黄ばんだ壁と散らばったゴミ。
「またか」
そう小さく呟いた。

よく、昔の夢を見る。10年程前の記憶だった。
彼女との記念日を祝い合った日。
首にかけたアクアマリンを握りしめる。また、彼女との記憶を鮮明に思い出してしまう。初めて告白した日も、初めてお化け屋敷に行った日も。

そして彼女が事故で死んだ日も。

もう涙も出なかった。胸に異物を抱きながら仕事の準備をする。

スーツを着て、鞄を持って家を出た。美味しい空気も夢を見た後ではまるで泥のようだ。

どうせなら夢が醒める前に、夢でもいいから
「彼女にプロポーズしたい」
そういつもと同じ言葉を吐いた。

3/21/2024, 1:32:56 AM