5/23「逃れられない」
「ダメだ、逃げられない! もう無理だ!」
「もうちょっとだから頑張って!」
姉ちゃんが振り返る。
シェルターまでの道のりは知っている。だが、足の不自由なばあちゃんを背負ってそこまでたどり着くのは無理だ。敵はすぐ後ろに迫っている。
「逃げられないなら、」
ばあちゃんが言った。次の瞬間、背後で爆発音。呆然とする俺達の前で、ばあちゃんの腕だったはずの太い筒が煙を上げている。歯の抜けた口が笑った。
「戦うだけさね」
じいちゃんがマッドサイエンティストだったことを、俺達はこの20分後に聞かされることになる。
(所要時間:6分)
5/22「また明日」
「ぱぱ? なにかあったの?」
テレビを消したところに、風呂上がりの娘がやってきた。
「なんでもないよ。ほら、もう寝る時間だ」
声を掛けると、娘は珍しく素直に布団に入った。
「ぱぱ、おやすみ」
「ああ、おやすみ。また明日」
核を持った隣国が、つい今しがた、宣戦布告した。
明日は―――おそらく、来ない。
(所要時間:4分)
5/21「透明」
透明なのに、存在しているもの。
透明なのに、見えるもの。
透明なのに、僕の心をこんなにも痛めるもの。
君の、涙。
(所要時間:3分)
5/20「理想のあなた」
「ついに完成した! 私のあらゆる理想を詰め込んだアンドロイドが!」
科学者は横たわった男のそばの機械を操作し、起動させる。ゆっくりと、男は目を開いた。
「…真梨子?」
科学者は、生まれ変わった夫を前に、涙ながらにうなずいた。
(所要時間:4分)
5/24/2024, 4:41:01 AM