G14

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 お、見ない顔だな。
 新入りか?
 ようこそ、この街へ。 
 この街には何でもある。
 存分に堪能するといい!

 え?
 ここはどこかって?
 自分はトラックにはねられたはず?

 そうだな。
 あんたの思っている通り、ここはあの世だ……
 おいおい、まるでこの世の終わりみたいなツラしてんな。
 ま、無理もないか。
 俺たち死んでいるんだもんな。

 でも落ち込むことはないぜ。
 ここはいい場所だ。
 さっきも言ったが、この街には何でもある。
 食べ物、娯楽、住居……
 暇つぶしには事欠かない。
 何もせず怠惰にいてもいい。
 天国ってやつだ。
 ここで遊んでいれば、お前の知っている奴らもここに来るさ。

 ああ、そういえば……
 あんた、怪談話は好きか?
 そっちも、よりどりみどりだぜ
 もっとも、実在が不明な都市伝説だがな。
 でも本当である必要はない。
 怪談って言うのはな、恐ければそれでいいんだ。
 そうだろ?

 けれどな、一つだけ本物の都市伝説があるんだ。
 それはいわゆる『開かずの扉』と呼ばれるもの。
 聞きたいか?

 そんなに嫌そうな顔するなよ。
 そんな顔されたら教えたくなっちまう。
 ほら、お前さんの後ろにあるやつ。
 それが『開かずの扉』だよ。

 くあっはっは。
 お前、バッタみたいに飛びのいたな。
 いいもん見させてもらったわ。
 怒んなって、いい事教えてやっから。

 その扉なんだが――
 待て待て、怖い方の話じゃない。
 お前にも関係のある話だ。

 その扉を通るとな、現実世界に行ける――つまり生まれ変わるんだ。
 すげえだろ。

 不思議そうな顔してんな。
 なんで『開かず』なのかって顔だ。
 うん、当然の疑問だ。

 だって誰も開けたことないんだよ、ソレ。
 ここが楽しすぎるからな。
 辛い現実世界に戻りたいとは、誰も思わないんだよ。

 開けたことないのに、何で行き先が分かるのかって。
 そうだな……
 ここにしばらくいると、その扉から現実世界の気配がするんだ。
 そしてこう思う。
 『ここを通れば生まれ変わるんだな』と……
 
 だから、なんて言うかな、生まれ変わりたいなら開けてもいい。
 誰も止めはしないさ。
 ああ、今開けても無駄だ。
 こっちに来てすぐに開けた奴はいるんだが、そん時は何もなかった。
 多分、準備が出来てないんだろう。
 それで準備が出来たら、現実世界の気配がする――と、俺は考えている。
 本当かは知らないぜ。
 そんな気がするってだけだから。
 
 それまでは、ここで大人しく遊ぶんだな。
 遊んでりゃあっという間さ。
 そのうち現実世界の気配がするよ。
 開けるのはそれからだ
 ……その時に生まれ変わる気があるならな。

 俺の知る限り、この扉を開けて向こうに行ったやつはいない。
 知り合いにも、見た奴はいない。
 これからも誰かが開けるとも思わない。
 俺も開けるつもりはないし、お前が開けると思ってない。
 つまり、何が言いたいかって言うと……

 だから『開かずの扉』なんだ

6/12/2024, 1:17:52 PM