食欲の化身

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『傘の中の秘密』

ぽつぽつ、ざあざあ。
朝から降り続いている雨は夕方になっても止む気配を見せず、未だアスファルトや屋根に滴を打ちつけている。

雨は嫌いな人が多いけれど、私は結構好きなほうだ。
色とりどりの傘が花のように開いて綺麗だし、傘に雨粒が当たる、パタパタという音が聞いていて楽しい。

でも1番楽しいのは、傘越しに見る世界だ。
傘というフィルターを1枚隔ててしまえば、普段は恥ずかしくて直視できない、大好きなあの人をいつもよりもずっと長く見ていられる。
私だけの、傘の中での楽しみだ。

彼の傘は透明のビニールで、彼の後ろ姿がよく見える。
私よりも少し背の大きい彼は黒いリュックに学校の指定ジャージというラフな格好だ。

きっと雨だから部活は中止になったのだろう。
久しぶりに早く帰れるみたいだから、帰ったらゲームでもするのかな。
もしかしたらテストが近いから勉強するのかも。
でも彼、勉強苦手みたいだしな…
いつか一緒にできたらいいのにな。

雨の日は考える回数が自然と増えてしまう。
私がまた空想の世界にいると、彼が突然振り返って話しかけてきた。

最悪。
今は湿気で髪がうねってるし、何だか今日は前髪まで上手くいっていないのに。
おまけに制服だって少し汗ばんでるし、絶対に間抜けな顔してる。
心臓はバクバク言ってて彼の言葉なんてまるで分からない。

この熱気も緊張も、全部雨のせい。
やっぱり雨なんて大嫌いだ。

6/2/2025, 3:24:07 PM