【バカみたい】
俺のクラスに転入して来たアンタは、不自然な程すぐにクラスに馴染んだな。あれは小学校の五年生だったか。
家が近所だからって、俺にも初めからやたら馴れ馴れしくて、俺の親や兄貴にまで取り入って気に入られて。
明るくて、人懐っこくてよく笑う―――だけど行儀は良い、大人受けする女子。
俺はそんなアンタが昔から大嫌いだったんだ。
なんてな。嘘だ、俺はアンタが好きだよ。
嫌いだったのはアンタの笑顔。
明るくて人懐っこくてよく笑う、アンタはただ、皆に好かれるそんな女子にあの頃なりたかったんだろ?
けど卑怯だろ。そうやって人を和ませる柔らかい微笑みの下に、固く閉ざした心を隠し続けていたんだから。
バカみたい。
だってアンタさ、ホントはそんな女じゃないよな。
誰かになんてなれやしないのに、そんなモン演じてみても結局一人で落ち込むだけだろ。
それでも笑っていたかったってのか?
精神どんどん擦り切れてんじゃねえか。
本当バカみたい。実は自分でもそう思ってるよな?
仕方ねえな。疲れ切ったバカで可哀想なアンタに、居場所をひとつやるよ。
「俺にまで無理に笑わなくても良いぜ、疲れるだろ。幼馴染みじゃん俺ら」
アンタの心を解放する言葉。
この時の、俺を見上げる縋り付くような眼が忘れられない。
アンタ余程疲れてたんだな、こんな他愛ない言葉で呆気なく堕ちるなんてさ。
大丈夫、これからは俺の隣に居るだけで良い。ホラ、楽だろう?
そう言うと、アンタは小さく頷いて俺の腕にしがみ付いた。
そうだ、それで良い。
アンタは、素の自分で居られる場所を求め、俺がそれを与えた。
俺は、暗くて人間不信で気怠げな、誰も知らない本当のアンタが欲しかった。
Win-Winだろ?
だからずっと俺の側に居ろ。本当のアンタを理解しているのは俺だけなんだから。
笑わない、誰も知らないアンタが好きなんて、俺も大概バカみたいだけどな。
3/22/2024, 12:15:45 PM