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久しぶりに水族館に来た。
勿論一人で。

薄暗い館内は巨大な水槽の淡い光が差し込み、キラキラと揺れている。
俺は、中を踊るように泳ぐ魚達をただひたすら、それこそ取り憑かれたように見つめていた。


失恋した。


好きだった子がいた。
大好きだった。

あの子の為なら、何でもできると思ったし、あの子のことを想うと胸が締め付けられる。そんなベタな恋心を抱いていた。

本当はこの水族館も、あの子と行きたかった。
だが、勇気をだして誘って返ってきた答えは、
「私、彼氏がいるから」。

呆然と立ち尽くす俺に、彼女は「ごめんね」と言い、一世一代の告白は、好きの一言すら言えずに終わったのだ。

なんて惨めなんだろう。

なんて浅ましかったんだろう。

恋なんて大嫌いだ。

こんな、こんなにも人間を狂わしてしまう。
無理だと分かっているのに、可能性の一ミリすらないのに、まだ俺は彼女を諦めきれない。

確かに恋をしていた。

好きだった。

多分、この先一生忘れることの出来ない想いだ。

目の前で泳ぐ魚達は、そんな惨めな俺を嘲笑うかのように泳ぎ続ける。
尾鰭を広げて、水の中を自由に踊る。

泳いで、泳いで、泳いで。
その先に何かある訳でもないのに、泳ぎ続ける。

「いいなぁ……」

俺も、この水槽の中に入ってしまえば、こんな惨めな想いをしなくて済んだだろうか。
いや、そうなってしまったら、あの子の事を好きになった気持ちまでなくなってしまう。

それは、なんか嫌だ。

でもやっぱり苦しい。

せめて、好きの二文字だけでいいから、伝えたかった。

あぁ、恋なんて大嫌いだ。



『踊るように』

9/8/2024, 6:08:41 AM