いろ

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【秋風】

 吹き抜けた涼やかな風が、銀杏の葉を巻き上げる。太陽の光を受けて鮮やかに輝く黄金色の景色に、少しだけ目を細めた。
 ああ、もうすぐ冬がやってくる。しんと静まり返った寒い寒い雪の降る日、君がこの世界から旅立っていた季節が。
 二人で最後に歩いたのは、銀杏並木の道だった。地面に降り積もった銀杏の葉を踏みしめながら、秋風が冷たいからなんて言い訳で身を寄せ合って手を繋いだ。そのあとは真白い病室を出ることのないまま、ゆっくりと衰弱して息を引き取った。
 もう君がいなくなって十年以上になる。それでも忘れることなどできない。秋風が身を切るたびに、君のことを思い出す。
(キスくらい、してあげれば良かったな)
 幼かったあの頃は気恥ずかしくて、指を絡ませるだけで精一杯だった。今だったらその身体を抱きしめて、優しいキスを何度だって贈るのに。
 空虚な寂しさをなぞりながら、風の運んできた銀杏の葉を一枚、指先につまみ上げた。

11/14/2023, 9:55:35 PM