ホシツキ@フィクション

Open App

この世にはもう俺以外誰もいないみたいだ。
朝早く目が覚めてから1度も誰とも会っていない。

6日前くらいまではいたような気がするが、急にパタリと辺りが静かになった。
聞こえるのは鳥のさえずり、風で木々が揺れる音。

誰の声も聞こえない。

俺は誰かいるかもしれないという淡い期待を込めて、今日も呼ぶ。
「おーい!誰かいないのか!?」

返事がない。

『今日はもう少し遠くまで行ってみよう。』

力をふりしぼり、勇気をだして探しに行く。
というのも、俺の命は長くは無い。
終わりが近いと、そんな予感がしている。


ただ自分の最期に誰かにそばにいて欲しいだけなのだ。
ふと視界になにかが写り、ハッとして何かがいた方に向かう。

見たこともない生物がそこにはいた。

「お前は誰だ?」
と問いかけるが、返事がない。
『言葉が通じてない?というより、この世界の生き物なのか?』
それは黒黒しく、自分よりも大きい。楕円形のてっぺんにツノのような何かが付いている。

明らかに自分よりも強そうだが、こちらを攻撃する意思はないのか、それは飛んで行った。

『なんだったんだ…でも、とりあえずは安全な生物らしい。』
俺は安堵しつつ、再び誰かを探しに出かける。

それにしても、寒い。ひゅう、っと肌に冷たい風が当たる。
体だけでなく心も寒い風が吹いていた。

残り少ない命に寒い環境。これは早く誰かを見つけなければ。

俺は叫んだ。周りを見渡しながら移動しては叫び、移動しては叫びを繰り返した。

孤独に死んでいくなんてゴメンだ。
せめて誰か、さっきのような異形の物ではなく、せめて言葉が通じるものがいい。



でも、もうダメかもしれない……。
少しずつ前に進む体力が無くなってきた。

それでも叫ぶ。精一杯生きたい。そして悔いなく死にたい。

―――俺は1本の木にたどり着いた。
すごく大きくて立派な木だ。

『ここで俺は死んで、土に還るのか。それも悪くない。』

俺は残りの力を振り絞り、叫び続ける。
冷たい風に乗せて、遠くまで自分の声が届くように。

叫びながら思う
『長いようで短い人生だったな。』

叫びながら思う
『せっかくこの世界を楽しいと思い始めたのにな。』

叫びながら思う
『本当に誰もいなくなってしまったのか。』

叫びながら思う
『……彼女欲しかったなあ。』


最後の最後にこれか。
俺は笑った。大きな声で笑った。



「ミーン ミン ミン…………」

声が出なくなる。力がどんどん抜けていく。


俺は倒れて仰向けになり、空をただただぼーっと見ていた。

『あぁ、眠たい。』


こうして俺の7日の命は終わった。


【声が枯れるまで】~完~


セミ目線で初めて書きました。
私はヒグラシが好きです。夏の夕方、ちょっとセンチな気持ちになるから。
いつも♡︎ありがとうございます!励みになります!

10/21/2022, 11:31:18 AM