夏の太陽よりも熱いライト。
暗く小さなライブハウスにひしめくかわいいファンたちの熱気。
ミニスカートを翻して煽る。
「みんなー! まだまだ行けるよねー! 声枯らすまで叫べー!」
うおおおお、と地響きのような歓声が肌をビリビリと揺らすこの瞬間があたしは何よりも好きだ。
アイドルになりたくて上京してきたあたしは、夢を叶えてこの舞台に立っている。デビューしたてで知名度は低く、まだ大舞台には手が届かない。それでも今目の前にいる人々があたしを、あたしたちを見てくれることがとてつもない幸運であることを知っている。
かわいいというより美人な方で、背も高く、冷たい印象を持たれやすいあたしは、アイドルに向いている方ではないことを知っている。
それでもアイドルになりたかった。クールなだけじゃないあたしを演出してみたかった。
そんなあたしの挑戦を認めてくれた、プロデューサーと仲間と、そしてファンのみんなに心から感謝している。
だからあたしは歌うのだ。声を枯らすまで。
「さぁ次はファーストシングルからあの曲! いくよ!」
次の曲を伝えれば、会場の熱気は更に増す。
活動を続けてから、曲は何曲か増えている。それでも最初の一曲目は特別だ。左右の仲間たちと目を合わせて、開始前のポーズを取る。
初めてあたしがセンターを飾った曲。
あたしがアイドルとして認めてもらえたときの曲。
イントロが流れるこの瞬間は、いつもドキドキした。まるで恋をしているみたいに。大好きな人に、かわいいと言われることを想像するときみたいに。
愛を込めて歌うから、めいっぱいの歓声をあたしにちょうだい。
息を吸う。
愛してるを歌に込めて、全力を出すつもりで歌い出す。それでも溢れる愛は枯れそうになかった。
10/22/2023, 2:40:45 AM