初音くろ

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今日のテーマ
《失恋》





「好きです!」
「駄目!」

好きです、の最後の一音に被せる勢いで食い気味に駄目出しされ、私は完全に出鼻を挫かれた。
望みがないだろうとは思ってたけど、まさかここまで呆気なく、秒で振られるとは思わなかった。
まるでコントか何かのような失恋っぷりに、涙よりも笑いが零れてしまう。
未練を残さないように木葉微塵に恋心を打ち砕くその心意気は流石としか言い様がない。

「ありがとう! ここまでバッサリ振られるとは思ってなかったけど、きっぱり振ってくれて、いかに望みがなかったのかよく分かった」
「ごめん、あの、そういう意味じゃなくて」
「気にしないでいいよ。さすがにすぐにまた今までと同じにってわけにはいかないかもだけど、周りから変なコト言われないようになるべく今までと変わらないようにするから」
「いや! だから! そうじゃなくて!!」

さっきの「駄目」よりも更に食い気味に遮られて、何だか雲行きがおかしいことに気づく。
彼はものすごく気まずそうな顔をしていて、その頬は夕陽のせいとは思えないくらい赤い。
私が目を丸くしながらも足を止めて聞く姿勢になったことで、彼はやっとホッとしたように息を吐く。

「違くて。駄目ってのは、断ったんじゃなくて」
「え? それはどういう……」
「男とか女とか、考えが古くさいってのは分かってるんだけど。好きな子には男の俺から告白したかったっていうか」
「は?」
「だからって『駄目』はないよな。ほんと俺、何様だよ。いくらテンパってたからって好きな子傷つけてどうすんだ俺」
「えーと、それはつまり?」

秒で振られたはずなのに、これはどういうことだろう?
いやいや、まだ期待したら駄目だ。
なにせ彼はちょっと天然なとこがあるからね。
そういうとこも可愛くて推せるんだけど!

そうは言ってもこの状況で期待するなというのは無理で。
正直な私の心臓は、告白する時以上にスピードを上げて激しく脈打ってる。

「それはつまり、俺が君のこと好きだってことです」
「マジで!?」
「マジで! こんな場面でウソ吐く度胸なんかないし!」
「よっしゃー!」

ロマンもムードも全くなく、私はその場で飛び上がって喜んだ。
だって正直叶うと思ってなかったし、「振られたけどこれからもいいお友達でいてね」って強がる心の準備しかしてなかったのだから仕方ない。
普段は信じてもいない神様に心の底から感謝の祈りを捧げながら、私は勢いに任せて彼に抱きついた。

こうして私の失恋はあっというまに撤回され、この日、人生初の『彼氏』を得ることになったのだった。





6/4/2023, 9:03:02 AM