noname

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 砂をすくえば指の間をこぼれていくだろう。人を欺いてでも手に入れたかった金も同じだった。
 地獄の底の血の池の中、あいつを踏みつけ息を吸い、こいつに踏まれて溺れて足掻く。暗がりだけの天に向かって、無数の腕がひしめきながら、阿鼻叫喚の独りよがりを叫び続ける。
 それはお前の髪か蜘蛛の糸。先の見えぬほど高い場所からつらりと降りて、俺の眼の前をくすぐるように揺れていた。
 掴み、すがり、何かを踏みつけ背を伸ばす。繋がる先など何処でもいい。ここでない、少しマシなどこかなら。
 ずるり、ずるりと手繰って登る。何処まであるのか知らないが、どこまで来たのか気にはなる。ちら、と足元のぞいてみれば、我も我もと群がる悪人の、腕に足に声に目が。ぞっと背筋を走るのは、泡と消えゆく己の労力。ここまできたのだ、やっとここまで。

 砂をすくえば指の間をこぼれていくだろう。俺を救いたいお前も同じだよ。
 まさか俺が悪人なのを、知らなかったわけじゃあるまいに。丁半博打の手慰みに、悲しい顔をしやがって。お前も俺も願いは叶わぬ。虚しい過去が、そればかりが積み重なる。ああ、だったらいったい、どうすれば―――

 砂が、砂が、見向きもされずにこぼれた砂が。
 血の池の中で泥になる。



【どうすればいいの?】

11/21/2023, 3:47:42 PM