ほろ

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どうして自分には力が無いのだろう。
どうして自分には時間が無いのだろう。
『売り切れました』のPOPを見るたびに、自分の無力さを骨の髄まで叩き込まれる。

「また……限定品……買えなかった」
わたしは、限定品と名のつくものに嫌われている。
食品もコスメも、服も文房具も生活用品でさえ、買いに行けば必ず売り切れている。
目の前で商品が売り切れた時は、そういう星の元に生まれたのだと自分を恨んだ。
神はいない。なんなら、運もない。

「いっそ清々しいよね、そこまでいくと」
彼氏が声を押し殺しながら笑う。昨日買えなかった限定ポテチの話をしたら、先の発言が出た。誠に遺憾だ。
「わたしだって、好きでこんなギャグみたいな展開を受け入れてるわけじゃないんだけど」
「きっと、ギャグ漫画の主人公になれるよ」
「あんまり嬉しくないな、その褒め言葉。……褒め言葉か?」
さあ、と彼氏は首を横に傾ける。悪気が無さそうなのが憎らしい。
「まあ、褒め言葉と思ってよ。それより、渡すものがあるんだ」
リュックサックをぐるんと前に持ってきて、彼氏は中からポテチを取り出した。わたしが昨日買えなかった、限定ポテチ。
「…………」
「どう?」
「最低で最高」
「ありがとう」
「褒めてない」
さすが、神にも運にも見放されたわたしとは正反対の彼氏。わたしがギャグ漫画なら、彼は少女漫画の主人公になれる。
どうして彼は、こうもわたしを喜ばせるのが上手いのか。
「ちなみに、なんでわたしが買えてないと思ったの?」
「だっていつも言ってるじゃん。そういう星の元に生まれてきた、って。だから、買える星の元に生まれた俺が買うべきかなって」
「やっぱ最高か、わたしの彼氏」
「今度は褒めてるよね?」
「褒めてる」
ポテチの袋を左右に引っ張って開ける。
時間も力も無いわたしだけど、彼氏にだけは恵まれたようだ。

1/14/2024, 3:04:36 PM