かさ

Open App

※BL描写




 扉がばねの力に任せて閉じ、目の前の彼が後ろ手で鍵を閉めたらしく、がちゃりと金属のかんぬきが閉まる音がした。
 大柄な彼は、見た目によらぬ繊細な手つきでこちらの頬をそっと指先で撫でる。その微かな感覚に集中し、体温をうっとりと享受した。彼の瞳には温かな愛が滲んでいて、それに胸が熱く締め付けられている。

 ごく当たり前の動作で彼は顔を近付けて、俺は柔らかな唇を受け入れた。口づけの予感に瞼を下ろしたせいで、唇の感覚と吐息に敏感になっている。

「……ん」

 ゆったりと唇を重ね合わせるうちに境目は融け合い、呼吸さえどちらのものとも分からなくなった。手はいつの間にか彼のワイシャツに縋り、キスに夢中になっている。
 濡れた粘膜が触れると、互いに体温が上がるのが分かった。
 さらに強く抱き寄せられ、後頭部をほとんど掴まれる形でキスを交わす。激しい鼓動に押し上げられる胸板が当てられて、ただ愛情だけがここにあった。


 ようやく、口内をじっくりと犯していた舌が去ったというのに、俺の舌はそれを拙く追いかけてしまっていた。あやすように絡められ、そっと離される。

「あ……」

 こぼれ落ちた物欲しそうな声が、どちらのものかということさえ分からなかった。たっぷりと潤った唇がくっつくかどうかという近さで、鼻先を擦り合わせる。
 言葉はもはや要らず、心のままに互いを求めあった。

12/12/2023, 3:31:52 PM