YesName

Open App

【Love you】

『何でって?君のことが好きだからさ!』
それらしく笑い掛けながら言っていた、これは建前。
『私に近付けば何か良い事でもあるんじゃないかと思ってたんでしょ。』
そう、これが本音。
『まーどっちでも良いじゃん。』
いや待て、果たして本当にそれが本音だったのだろうか…?

今、何がしたいのか全く分からなくなってしまって、初めの頃を何度も思い返す。
『君のことが好きだから…』
これは確かに建前だった筈だ。
『近付けば何か良い事でもあるんじゃないかと思って…』
これは本当に本音であり、私はただ単に損せず賢く生き延びたかっただけなのだとしたら、私は何故彼女にずっと付き纏っていたのだろうか。

冷静に考えてみるとおかしい、彼女の雇い主と接触したタイミングでさっさとそちら側に取り入っていれば、こんな風に自らを危険に晒すような路を往く必要なんか無かったろうに。
人は誰しも間違いを犯すものだとは言えど、これは奇妙だと思った。
無いのだ、彼女を切り捨てるという発想に至った記憶が、それはもう不気味なほどに。

本当の本音はどこに消えてしまったのだろうか。初めから建前しか存在しなかったのだろうか。
そうなのかも知れない。ずっと建前ばかりを余計に飾って生きてきたものだから、それに愛想を尽かした本音はもうどこか遠い所へ行ってしまったのだと言われても、納得が行く。

それじゃあ殆ど、建前が本音みたいなものか。

これまで自分の中での建前上本音とされていた事、建前上の本音の為に作られた建前、その全てが私の中でひっくり返っていくような、そんな音が聞こえた気がした。

『まーどっちでも良いじゃん。』

何が本音で何が建前なのか分からない私は、いつものようにそれを建前らしく言った。

「君のことが好きだからさ!」

2/23/2024, 6:34:01 PM