俺が生きていた時の話をしましょうか。
恐ろしいほどに天が蒼く空気の澄んだ秋の日に、俺は貴女に見送られ、旅に出ました。貴女は、五年経ったらまたおいでなさい、私はここで待っているから、そうおっしゃって俺を送り出されました。
俺は貴女とひとときも離れたくはありませんでしたが、それでも見送られるままに泣きながら旅立ちました。貴女のお考えには逆らいたくなかったのです。
五年経って、俺は貴女のところへ戻りました。
その時貴女はもう、この世から旅立った後でした。
俺のことを待っていると、そうおっしゃっていたではないですか。そう一人で泣き喚きましたが、貴女を悼む碑は静かにそこに佇むばかりでした。
じきに俺は泣くのを止めて、何を飲むことも食べることも止めて、貴女の碑の前に座り続けて死にました。貴女のいない世界で生きる意味など、俺にはありませんでした。
ええ、だから、貴女をお守りする者のひとりになれたことを、俺は心から嬉しく、誇りに思うのです。愛する貴女の傍に常に在り、あの時の俺ができなかったことを何度でも貴女にして差し上げられることが、何よりも幸福なのです。
貴女に名を呼んでいただくこと、貴女の優しい瞳に映ること、温かく柔らかい手で触れてもらうこと。
そのように、もはやできなくなってしまったこともありますが、それでも俺は心の底から幸せです。
恐ろしいほどに天が高く蒼く澄んだ、あの秋の日。
あの日が金輪際の終わりにならず、こうして貴女の魂の行く末を見守れることが、本当に本当に、冥加に尽きるのです。
4/13/2024, 1:13:49 PM