かくもの

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空恋:



新しく始まったドラマのタイトルはどこか既視感があって、学生のころ親が毎週欠かさず観ていた恋愛ドラマを思い出した。

とはいえこの現代で既視感がないものを生み出すことのほうがよっぽど難しいのは身に染みた事実だ。今この瞬間を生きている自分の人生でさえも、人類の歴史の中では何番目かのよく似た物語かもしれないのだから。

そこまで考えて、さすがにそれは病的な思考だろうかと手を止めた。少し疲れてきているかもしれないな、今日はここまでにしよう。

書きかけのデータが保存されたのを注意深く確認して席を立つ。久々に広くなった視界に飛び込んできた窓の外は気後れしそうなほどの快晴で、眩しさもあいまって無意識に目が細くなってしまう。

空調管理が行き届いているにも関わらずじわりとにじむ夏の温度を感じていたところで「からん」と氷の音がした。そういえば麦茶を出していたんだったか。すっかり汗をかいたグラスはまだ冷たいが、わずかに透明な上澄みが見える。

「……夏だなあ」

飲み干したグラスから滴る水の冷たさと少し遠くに感じる夏空の青を眺める気持ちは、手の届かない存在に恋をするそれとよく似ているような、そんな気がした。

7/6/2025, 11:47:47 AM