芸術は、触れないはずだった青空に、指を浸せたみたいな感じがして、指先から空に染まるような心地がして、嬉しくて、心地よくて、好き。
ざらざらの砂を左手に掬い、さらさらと落とす。
右手の人差し指で、砂に流れの線を引く。
アナログテレビの砂嵐からそのまま出てきたような砂は、白と黒の印影のみで、その形を表している。
猫が、にゃあん、と鳴いた。
ある論文によると猫は液体らしい。
猫が液体なのだったら、なぜ砂は固体なのだろうか。
猫も、砂も、こんなにも流動的なのに。
私は、固体で液体を再現しようとしていた。
オアシス。
そう、砂漠の中のオアシスを描きたかったのだ。
だから、砂で、砂の山で、オアシスを作ってみよう、と
思い立ったのだ。
砂を掬い、さらさらと落とす。
固体と液体を分ける科学的な見解による分類でさえ、こんなにも曖昧で見方の違いがあるわけなのだから、私が自分自身を分類したこの区分だって、きっと曖昧で、見る人によっては間違えているのだろうが、ともかく私は、自分的な見解からは、芸術家であった。
芸術で飯を食っているわけではないが、本業の合間に、どうしようもなく表したいものを作品に表し、拵える、という点で、私は芸術家であった。
そして今朝、私は、オアシスを作ろうと思い立ったのだった。
サボテンと、砂地と、厳しい現実の中に鎮座する、幻惑か、陽炎のように不確かで、頼もしく、そして何より美しい、あのオアシスを、唐突に作ってみたくなったのだ。
だから私は描き始めた。
砂地に確かに残る、オアシスの跡を。
誰もが思い思いに、指を浸し、喉を潤し、目を輝かせることのできるオアシスを。
このざらざらの砂地に。
左手で砂を掬い、さらさらと溢す。
猫がどこかで、にゃあん、と鳴いた。
7/27/2025, 3:08:27 PM