冷端葵

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天国と地獄

 人は死ぬと天国か地獄かに振り分けられる。生前「良いこと」をした人は天国、「悪いこと」をした人は地獄といったふうに。
 地上の人口爆発に伴い一日あたりの死者数も緩やかに増加して、振り分け係の人たちは頭を抱えていた。行動の良し悪しを決めるために日夜証拠を集め、長い長い会議のうえ結論を下さなければならない。かつては魂の重さだとかオーラだとか非科学的なものを基準に振り分けていたそうだが、今ではそういった方法は批判され、より現実的で合理的な審判が求められている。この頃仕事量の増加が著しく、人手はいくらあっても足りなかった。
 そこで新しい判断基準が導入された。「所属していた国の法令に従っていたのなら天国、従っていなかったなら地獄」とあくまで法律を第一に据える方法だ。
 この方法は反発もあったが、仕事量はぐっと抑えられた。当面の間はこれでうまく回っていた。
 やがて悲鳴を上げたのは天国の管理人である。「正しさを示す唯一の手段は武力である」「上の立場の命令は絶対である」といった法令を遵守した人々が全員天国にやってきて一時パニック状態に陥ったのだ。天国はもはや天国とは言えなくなった。法律を基準にした振り分け方法は廃止され、振り分け係たちは自ら増やしてしまった仕事を嘆きながら寝る間も惜しんで働いている。

5/28/2024, 12:04:54 AM