◎声が聞こえる
目を閉じる。
少し遠くで車が走る音や烏の鳴き声が聞こえてくる。
決して賑やかではないお気に入りの場所で静けさを楽しもうと、私は耳をすませていた。
「姉ちゃん」
妹の声が聞こえた。
もう出発の時間になったのか。
いつもより奥まった場所に居るから探しているのかもしれないと思って、少しだけ声を張り上げた。
「はい、はぁい」
日常から切り離された静けさが少し名残惜しいが、また半年後に来るので躊躇うことなくその場を離れた。
「あれ?姉ちゃん、もう戻って来たんだ」
妹は車内で音楽を楽しんでいるところのようだった。
「“もう”って。さっき呼びに来たでしょ」
妹は不思議そうな顔をした。
「私、しばらく此処から動いてないよ」
「え……」
曼珠沙華と柴(しば)の葉が
ゆらりと揺れていた。
9/22/2024, 10:41:19 AM