ひらりひらり。
青く色づく葉が踊り、 時折眩しいほどの光が差し込む。
山には、一匹の狼が暮らしていた。
賑わう街から遠く離れたこの山は、威厳があり、 近寄りがたい場
所でもある。
寂しげな遠吠えが、山に響き渡っていた。
ある日のこと。
いつものようにふもとへと向かうと、 先客がいた。
真っ黒な羽毛をまとった鳥が、 羽を休めていたのだ。
「あなたは、誰?」
誰かと話すなんて久しぶりで、 声が裏返ったりしないように気をつけて声を出す。
「私は烏。 君は狼か」
「そう。 狼」
烏との会話はひとつひとつ短かった。
しかし、二匹は言葉を交わすことをやめようとはしないのだ。
次の日も、また次の日も、 烏はふもとへ飛んできた。
そのたび二匹は時折言葉を交わして、一緒に街を見下ろす。
「私は皆に恐れられている。 だから街へは行けないのだ」
狼の目は寂しそうに潤んだ。
「恐ろしいものか。 純白の毛も、鋭い目も、 美しいだろう」
口数の少ない烏が、 めずらしく早口で話した。
感情の昂りからか声がうわずっている。
「......ありがとう。 烏の黒い羽も、素敵だ」
「私の自慢だからな」
見せびらかすように羽を広げて、 ニコリと笑った。
鳥の笑顔を見て、 狼も少しだけ、 微笑んだ。
狼の遠吠えと、鳥の鳴き声が、 静かな山に響き渡った。
『「大空」からの贈り物』
12/22/2024, 9:59:11 AM