お題:未来
今まで、目の前にはレールがあって、未来に不安などなかった。
そのレールはどこまでも続いていて、自分はそれに沿って生きていけばいいのだと思っていたし、そんな生き方に不満もなかった。
だというのに、それは急に目の前からなくなった。
親の会社が倒産し、両親が自殺した。
親戚や知人は掌を返して離れていった。
大学には奨学金でなんとか通い続けられているが、生活費を切り詰めないとならず、付き合いにもいけず、友人は少なくなった。
とりあえず学校にも通えているし、生活もなんとかできてはいるが、これからどうしたらいいのか、途方に暮れていた。
「先が見えないなんて、何を当たり前のこと言ってんだ」
そう、心底呆れたと言うのは離れていかなかった数少ない友人。
バイトを紹介してくれたり、食事に誘ってくれたりと、何かと気にかけてくれる、面倒見のいいやつだ。
「お前みたいに何もかもが決まってるようなやつのほうが少数派なんだよ」
「それは、分かってるつもりだけど。正直、先が見えない状態で歩いていける皆が凄いと思う」
「俺は何もかも決まってるほうが窮屈でやだわ」
「俺は、これからどうするべきなんだろう」
ぼんやりとそんなことを呟くと、友人が肩をすくめた。
「考え方変えてみりゃいいだろ。これまでの考え方を変えるなんて簡単なことじゃねぇんだろうけど、何もないなら何でもしてみりゃいいだろうが」
「なんでも?」
「生き方は何も一つじゃない。真っ暗なのはお前がそう思い込んでるだけだろ。道はないんじゃなくて、何本も、どこへでも続いてるんだよ。分かれ道もあれば細い脇道だってある。そういったところを覗いてみて、色々試してみて、何がしたいのか見つけりゃいいんだよ」
「けど、その先どうなるか分からない」
「約束された未来なんてねぇんだよ。失敗することなんて成功することより多いだろうし、会社が倒産することだってあるだろうし、突然事故に巻き込まれたり病気になって死ぬかもしれない。そんなこと言ってたら生きていけねぇわ」
当たり前のことのように友人は言う。
そんな友人が、酷く強く、輝いているように見えた。
「まぁ、あくまで俺の考えだし、それを押し付ける気はないし、お前の場合は色々壮絶だからすぐに切り替えろってのは無茶なのは百も承知してる。立ち止まってこれからのことを考える事が必要なんだろ。いつか進む気になったら考えりゃいい。話くらいなら聞いてやるし、相談なら乗ってやる」
本当に、この口の悪い友人は面倒見がいい。
友人は随分と減ったが、彼が友人として残ってくれたことを、感謝せずにはいられない。
「あぁ、その時は頼む」
結局、何も解決なんてしていない。
相変わらず目の前は真っ暗のままで、右も左も分からないけれど。
それでも、ほんの少しだけ、一歩を踏み出せるような、そんな気がした。
6/18/2023, 6:48:11 AM