『夏休みの空』
夏休みが 真ん中よりも過ぎた頃
毎年 親戚が 泊まりに来ていた
「あんた お兄ちゃんなんだから」
そう言われても 年に数回だけの
『お兄ちゃん役』はなかなか厳しい
僕は小4 彼女はひとつ下だった
毎年 夏休みに1週間くらい
親戚のおじさんおばさんと
一緒に 泊まりに来ていた
家は まわりから本家と呼ばれる
昔ながらの風習が残る家
ど田舎だけど 川にも 海にも 近かったし
海水浴場にも 自転車で行ける
ピクニックがてら 山にも登れた
家の裏から 町で一番高い山に登れる
山頂には神社があり
お正月には そこに初詣に行く
今年の夏も 一週間 僕らは
朝から晩まで 止まる事をしらずに
ここぞとばかりに 遊ぶ
「ねえ あとで裏山に登ってみない?」
「いいよ!」
「めちゃめちゃ キレイなとこあるんだ」
昼飯を食べた後 少しのんびりしてから
僕らは 裏山に登った
麦わら帽子と水筒
ちょっとのおやつをリュックに入れて
家の裏山に続く坂を登る
右手に氏神様の祠 立ち止まり一礼
竹林を抜けて 杉林に入る
杉の枝が 真夏の太陽を遮って
少し ひんやりとする
そのまま 坂道を登ると
ぱっと目の前が開けて
牧草地の斜面に出る
「すごい!キレイ!」
そこからは 町を見渡せて
その先に海も見える
水平線が キラキラして見える
「はぁー!ちょっと休憩!」
僕らは 牧草地に座った
「私 いいものあるよ!」
彼女は水筒を入れていた
リュックから シートを出した
「すげー なんでこんなの持ってんの?」
「いつでも おやつ食べられるように!」
僕らは シートに座って お菓子を食べた
僕のチョコはでろんでろんだ 失敗した
彼女が持って来たスナック菓子を
二人で食べる
食べ終わってから 僕は思いっきり
寝転んだ
牧草は二番草が刈り取られた後で
柔らかい草がまた伸びはじめていた
「ひゃー 気持ちいいー!」
両手 両脚を思いっきり伸ばす
「私も するー!」
隣に彼女も寝っ転がる
「気持ちいいー!」
暑い……けど 風が吹くと気持ちいい
伸びはじめた牧草が ソワソワっと
なびいた
「ねぇ 空見てよ」
彼女の声が聞こえる
「空に……落っこちそうになるね」
ぽつりと彼女が呟いた
他のものが何も目に入らない
空だけを見つめていると
自分がまるで浮いているようで
空に 吸い込まれるような
そう……
落っこちていきそうな
そんな感覚になって
体が ブルッと震えた
「うわぁっ!」
僕は飛び起きた
「びっくりするなぁ~もうっ」
「マジで落っこちそうになった!」
まだ寝っ転がっている彼女が
笑いながら見ている
僕はちょっと恥ずかしくなり
照れ隠しに言った
「そうだ!今日はさ 夜に流星群見えるんだよね」
今朝 ニュースで仕入れた情報だ
「知ってるよ!ペルセウス座流星群でしょ」
「ぺル……う…うん!それそれ!」
「見えるかなぁ?」
「見えるよ!庭に寝っ転がって見ようよ」
僕はまた ゴロンと寝っ転がった
空が青い
夏の雲と空の青さは
最高の組み合わせだと思う
「また ここに来たいな……」
「来るといいよ!」
他愛のない話
僕らの夏休み
宿題の事は忘れても
この空の色は忘れないよ
* * * * * *
あれから10年
僕は また牧草地で寝っ転がってみた
空の色
雲の形
そして 青い草の匂い
頭の中が 一瞬タイムスリップする
『空に落っこちそうになる』
実は 彼女に会えたのは
あの夏が最後だった
翌年からは おじさんだけが泊まりにきた
子どもだった僕は 何もわからなかったけど
この歳になれば理解できる
今ごろ何してるんだろうな
いつか あの空に落っこちた頃
もう一回くらい 話してみたいなぁ
夏の風が
あの頃の僕の気持ちの中にあった
鈴の音みたいな気持ちを
また 揺らして 抜けていった
(つづく……?)
6/19/2022, 9:07:29 AM