それは魔法の言葉だったりする。
「じゃあね」
君が僕に手を振りながら向こうへ歩いてゆく。いつもなら、バイバイとか適当に返すんだけどさ。今日は、というか今日からはもう、この一瞬たりとも適当に扱えないんだ。
君が今日の昼休み、隣のクラスのアイツに告白されてた。盗み見てたつもりじゃないけど、たまたまその場面にさしかかって。でも君らが何を話してるのかまでは分からなかったんだ。他愛ない話かもしれない。そう思いたかったけど、アイツの顔がやたら真剣だったからそうじゃないと分かった。ついでに君も、普段の顔つきじゃなくてなんていうか、びっくりしてた。それでいて焦ってた。そこまで見て僕はその場を後にした。
君はあの後なんて答えたのか。気になるけど聞けない。アイツのほうはというと特に変わった素振りは見られない。だからまだ、告白の返事を返してないんじゃないかと思ったんだ。
だとしたら、僕に与えられたチャンスはここだ。けれど1日に2度も告白なんて受けたらさすがに君も疲れちゃうよね。僕も僕で、決意は固まったけど勢いのままに君に伝えるのは違うと思ってる。
だから、決行日は明日にする。
「また明日ね」
遠ざかる君の背に向かって僕は叫んだ。柄にもなく声を張り上げて。君は思わず振り向いた。すごくびっくりしてた。多分、明日はもっとびっくりさせちゃうと思う。願わくば、驚きの表情なんかじゃなくて僕に笑顔を向けてくれたら――
そう思うけど、君の気持ちを聞いてみないとこればかりはどうなるかは分からない。
僕はもう、明日のことで頭がいっぱいだ。うまくいってくれと、それだけを願いながら帰り道を歩き出す。明日の僕は笑っていられるだろうか。それもまた、神のみぞ知る。
5/23/2024, 8:09:36 AM