Ayumu

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 病室のドアを開けると、今日も親友はベッドに腰掛け、幸せそうな笑みを窓の外に向けていた。
 今日は一体、どの過去に心を置いているのだろう。
 最初は運命の出会いだったと語っていた結婚間近の恋人と、次に懸命に支えてくれた両親と、最後に辛抱強く待ってくれていた新しい恋人と……ショッキングな離別を三度も経験した親友は、現実に生きることを放棄してしまった。
 無力な自分がひたすら腹立たしかった。例えば何度声をかけても、ずっと過去を生きている親友にはなにも聞こえていない。担当医もいろいろと手を尽くしてくれているが、傍目には変化がみられない。
「でも、あなたにとっては現実に戻るほうが苦しいんだよね」
 わからなくなる。少しでも長く生きてほしい、またお互いに笑い合いたいと願っているからこそ、毎日少しでも回復するようにと祈っている。
 親友にとって苦しいのは今だけ。治ればきっと——でも、それは本当に?
 いったい、親友の未来はどうなっているのだろう?

 自分こそ、今すぐタイムマシーンを手に入れて過去に戻りたい。
 親友に降りかかる不幸すべてを振り払ってあげたい。

 数日前花瓶に生けた花を捨てて、新たな花を挿す。
「花の世話するの好きだったのに、また、枯れてたよ」
 響いた声は、それだけだった。


お題:タイムマシーン

1/22/2023, 3:23:51 PM