夜雨と春歌

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【いつまでも捨てられないもの】



 夜雨の部屋の片隅に、一抱えほどの大きさの箱がある。
 再利用の段ボールとかじゃなくて、蓋のついたしっかりとした作りの箱だ。何か書かれたりしているわけではないから、中身は見当もつかない。
 春歌は一度、何が入っているのかと訊いたことがある。返ってきたのは、少し悩むように間を置いてからの、「……ゴミ」の一言だった。
「ゴミなのに捨てないの?」
「あー……」
「あ、ごめん。捨てられないから置いてあるんだよね」
 いや全然捨てていいんだけど、捨て方がよくわかんないっつーか、そもそも何ゴミかもよくわかんないし……。夜雨はぼそぼそと言い訳のように続ける。
 春歌はそっと箱を一撫でした。
 綺麗な箱に入った、少しの埃も被っていないゴミと名付けられたそれが、いつか別の名前になる日がくるといいな、と思う。

8/18/2023, 8:44:56 AM