『冬晴れ』
スーツに着替えたあと、リビングのカーテンを開ける。
ベランダの窓からは雲ひとつない青空が広がっていた。
西高東低の冬型の気圧配置が少し緩んだ今日。
連日、骨の髄まで凍えるほど吹き荒んでいた木枯らしもやんでいた。
乾燥した冷たい空気の中、穏やかに照らす太陽は暖かい。
柔らかなその光は、寒さで強張った体をじんわりとほぐしてくれた。
温度が消えた飲みかけのコーヒーをあおり、空になったマグカップをシンクに置く。
仕事用の眼鏡にかけ替え、腕時計をはめた。
鏡で身だしなみを軽く確認したあと、白と青の無地のハンカチを通勤カバンに入れる。
連休が続いていることもあり、彼女はアラームをかけていなかった。
いつもならとっくに起きてくる時間にもかかわらず、彼女はまだ寝室から出てこない。
ひと声かけるために寝室に戻ろうとしたとき、ちょうど部屋の前で彼女と鉢合わせた。
「おはよーぉ……」
「おはようございます」
彼女はブカブカと襟ぐりがよれて、毛玉にまみれた俺のトレーナーを着ていた。
余った袖をぺんぺんと遊ばせながら、彼女は俺の胸元まで擦り寄ってくる。
「またそんな格好して。いつか風邪引きますよ?」
なんて嗜めているが、ベッドの上にワザとらしくトレーナーを脱ぎ捨てていく俺も大概だ。
庇護欲を掻き立てられる衝動は、いつまで経っても慣れない。
「気をつけてるから大丈夫」
眠たそうにしながらも口答えしてきやがった彼女の生意気な太ももに、そっと手を這わせた。
引っかかりのない滑らかな肌の感触は、安定の防御力である。
「…………っ。腹と腰はきちんと温めておいてください」
「いつもれーじくんがあっためてくれるじゃん」
なんとか建前を彼女に伝えて下唇を噛むが、全く意味がなかった。
正月明けでまだ休みボケしている理性が全く仕事をしてくれない。
あー……。無理。
なんで今日、仕事なんだろ。
月曜日なんてなくなってしまえばいいのに。
迫り上がる欲を抑え込むために、胸中で悪態をつきながら彼女を引っぺがした。
「もう出るの?」
「ええ。今、ちょうど声をかけようと思っていたところです」
「そっか」
彼女の瑠璃色の瞳が妖艶に揺れ、唇が蠱惑的にきれいな弧を描いた。
「気をつけて」
そう言って、彼女は瞼を伏せながら顎を上げる。
形のいい薄い桜色の唇をわずかに窄められた。
意図して作られている彼女のキス待ちのツラがよすぎて喉が鳴る。
俺が手を出せないことを知っていて、彼女は容赦なく焚きつけてきた。
コノヤロウ。
本当に、帰ったら覚えとけよ?
開き直った俺は寝室の扉に彼女の背中を押しつける。
短い悲鳴をあげる彼女にかまうことなく、唇を塞いだ。
淫猥な水音を立てる口内と皮膚を堪能したあと、てらてらと艶を帯びた彼女の唇を指で拭う。
「あ、う……?」
へなへなと扉に体重を預ける彼女に、もう一度、唇を軽く啄んだ。
「では、いってきます♡」
彼女の火照った頬を撫でたあと、リビングを出る。
仕事をがんばるモチベーションができた俺は、軽やかな足取りで会社に向かうのだった。
1/5/2026, 3:18:11 PM