シロツツジ

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お題 あじさい

僕の知り合いには、花好きな人がいる。

彼の庭には、季節ごとに沢山の花が植えられていて、近所でもちょっとした名物になるほどの美しさらしい。

春には桜、夏に月下美人、秋に彼岸花、冬には椿。
何度か彼のお宅にお邪魔させて貰ったが、なるほど噂に違わぬ素晴らしさ。
いつからか、季節の変わり目には必ず彼の家を訪ねるようになっていた。

「紫陽花、今年は咲くのが遅いね。」

それは、例年通り彼の庭を訪ねた時の事だった。

陰鬱な雨の続く水無月の中で、彼の庭を見て心を落ち着かせようと思ったのだが、
「実は最近、庭の調子が悪くてね。」
申し訳なさそうな顔の彼の後ろには、鮮やかな緑葉を茂らせた紫陽花の生垣。
その光景を見て最初に思ったことは、純粋な驚きだった。
毎日の手入れを怠ったことのない彼が間違えるなんて、珍しいと思ったのだ。
「悪いけど、また来週来てくれ。来週中には咲くはずだから。」
その言葉を信じ、私はひとまず家へ戻った。

それから約一週間後、彼は逮捕された。

殺人と、死体遺棄の罪だそうな。

ふと、あの紫陽花は何色に咲いたのだろうと考えた。

6/13/2023, 2:51:04 PM