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目を開けた瞬間から、これは夢だとわかった。見たこともないような花が咲きみだれる、一面の花畑が広がっていたから。
見上げると、頭上には漆黒の夜空に星々が輝いている。月は見えない。
しかし、花畑自体が薄らと発光しているかのように輝いているから、視界は昼間とあまり変わらない程度には良好だった。
ほんのりと自ら光る不思議な花たちは、わたしが知っているものではなかった。
例えばあそこの木に巻きついてラッパ型の花を咲かせている蔓植物は、見た目はノウゼンカズラに似ていたけれど、ノウゼンカズラというには大きかった。何しろわたしの顔くらいの大きさなのだ。色も、元気なオレンジではなくて、月光を浴びる笹の葉のようなたおやかな色をしていた。
どこを見渡してもそんなふうで、わたしは不思議な気分になりながら、花畑を見渡した。夢に理由を求めるのは詮無い事だとわかってはいるけれど、どうしてこんな夢を見ているのかしら。花についてあまり詳しくないし、花畑に行きたい欲求もないのに。しばらく風に吹かれてぼーっと空を眺めていた。

不意に、あなたに送る花束を作ったらどうかと思いついた。
これは夢なのだから、あなたは、わたしが作った花束を受け取ることはないけれど、今作っておいたら、夢から覚めた後にあなたにこんな花束を作ったのよと言える。そうしたら、あなたは花束を貰ったのと同じことになるはずだ。
すてきな思いつきにうきうきとして、わたしは早速手近な花をつむべく、地面にしゃがみこんだ。
たんぽぽに似た花、薔薇に似た花、すみれに似た花、チューリップに似た花、マーガレットに似た花…。季節の関係で、本来同じ場所に生育するはずのない花同士が隣に咲いていたりする。
わたしはたんぽぽに似た花(普通のたんぽぽよりも花びらがまるっこく、金色がかった抹茶色をしていた。葉がギザギザではなく、やなぎのような流線型をしていた)をつんで、束ねる。
自分の好きな花を選んで、その束に加えて行った。花畑を歩き回るのは楽しくて、つい夢中でつんでいると、手の中の花束はどんどんどんどん大きくなっていった。
しばらく夢中になっていて、つむ手が追いつかないくらいだった。
突然、鋭い風が吹き抜けて、我に返った。北の山脈のてっぺんから迷い込んできたかのような、鋭くてつめたい風がわたしをのみこんで、そして通り過ぎていった。花びらが大量に風に乗っていった。
そっと腕の中を見ると、わたしの腕にかかえきれないくらい大きな花束が出来上がっていた。
そして、その時になって、わたしはようやく気がついた。
わたしは、あなたの好きな花も知らない。
あなたのことを何も知らないのだと。
毎日会って、話しているのに、何をすればあなたが笑ってくれるかも知らないでいるのだと。
わたしはとても悲しくなった。涙が出てきて止まらなくなって、そうしたら腕の中の花束がバラバラに風に乗って舞い上がって、わたしはそれらと一緒に風に乗って空に浮かんで、どこまでも流されていった。空から見て気づいたけれど、そこは月面だった。月にも花畑があるのか。孤独に空に浮かぶ月にも、こんなに賑やかしいところがある。
無性にあなたに会いたくなった。

明日になればまた会えるのに、わざわざレターセットを引っ張り出してきて、あなたに手紙を書いているのは、こういう訳です。よかったら、今度花畑に行きましょう。

9/18/2024, 3:07:31 AM