悦に浸る、と言うべきか。
まさしく今現在そんな感じに口角を上げている君を見ていると、
ぶん殴りたくなった。
信号は赤。まだ進めない。
反対車線に君は立っている。
何分も、もしかしたら何時間も、何日も前からそこに居る。
行き交うトラックや自家用車の隙間から、やっぱり君の顔が見える。
なぜそこに居るのか、僕には分からなかった。分かりたくもない。
花束を抱えた中年の女性が、跪いて手を合わせた。
君は彼女を一瞥し、ぬるいコーラを飲み干した。
こちらに来いと誘っているのだろうか。
一体僕に何をしろと宣うのか、さっぱり君の意図が読めないのだが、
ただ、信号は青になった。
果たしてどちらから歩み寄るべきだろうか。
生と死の境界など誰にも分からないから、きっと君も僕もこの世界に留まり続けても仕方が無いし、さっさと川渡りして石積みでもしたらいい。
信号がまた赤くなったが、透いた君が近づいた。
三十八作目「信号」
9/6/2025, 5:53:46 AM