白糸馨月

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お題『風に身をまかせ』

 風が吹きすさぶ丘の上で僕は震えている。僕の住む村では空を飛んで資材を調達するのが当たり前だ。ある程度の年齢になったら、マントを身にまとって空を飛んでいいって、母さんとか兄さんが言ってたっけ。
 昔から空を飛ぶ兄さんたちを見て、憧れていた。僕もいつかあぁなれたらいいなって。だけど僕は高所恐怖症で、丘の上に立つだけで『落ちたらどうしよう』と震えるのが精一杯だ。
 うしろについていた兄さんが言った。

「最初怖いのはみんな一緒さ。だけど飛び降りた後、無理に体を動かしてはいけないよ。風に身をまかせていればいいんだ」

 言いながら兄さんは僕の背中を押した。丘から下に急降下する。

(あっ、まずい。これは死ぬかも)

 そう思ったのもつかの間、僕の体は宙にふわふわ浮いていたのだ。

「これはもしかして?」

 風に乗りながら僕は上に浮上する。兄さんがにこにこしながら頷いていた。僕もやればできるんだ。
 風に身をまかせて、僕はしばらくマントを使って空中浮遊を楽しんだ。

5/15/2024, 1:18:00 AM