かたいなか

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「『恋』+『愛』で合計8回目のお題なんよ……」
このアプリ、エモネタと空ネタと恋愛ネタで3割4割は成り立ってる説。
某所在住物書きは「秋恋」の進出単語に首を傾け、なんだそれはとネット検索を開始した。
そういうタイトルの歌があるらしい。

「初恋も、本気の恋も、失恋の恋物語も書いた。愛があれば云々ってお題もあった。ラブロマンスはエモネタ以上に不得意だ。その俺に、何書けって……?」
書いて、消して、また書いて消して。
何度も物語を組み直すが、己の納得のいく話がさっぱり出てこない。
「……ダメだ。これ、ベストなもの投稿しようとしたら、書けなくてタイムオーバーになるやつだ」
ひとまず、何か投稿しよう。物書きはネタの枯渇に敗北し、ともかく今書けるものを書き始めた。

――――――

ネット情報によると、「秋の恋は」の検索結果として、それは長続きし、かつ深まりやすいそうです。
本当かどうかは知りませんが、検索結果とは真逆っぽい、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所。加元という、恋に恋する、恋の恋人がおりました。
元カノ・元カレの、かもと。分かりやすいネーミングですね。
この加元、自分の好みに完璧に合う顔とスタイルの相手を見つけたら、己の言葉と声と表情でもって、
ぬるり、ぬるり、そのひとの心に潜ります。
内面もピッタリ好みに合えば、ひとまずその人は、恋のアクセサリーとしてキープ。
内面がピッタリ合わなければ、減点方式で評価して、最終的にポイチョと捨てます。

その日は加元の10回目の「失恋」の日。
ソシャゲでリセマラするように、目当ての最高レアが揃わなかったアカウントを消すように、
ため息をつき、カフェチェーン店で買ったラテを飲みながら、次の恋のリセマラを始めるのでした。

「今回もダメだった」
ポンポンポン。SNSに「友人」との「決別」報告を投稿して、加元はカフェのテーブルで頬杖をつきます。
「秋の恋は、長続きする筈なんだけどなぁ……」
加元はプチ完璧主義者で、リセマラガチ勢でした。
少しくらい妥協すれば、我慢すれば楽なのに、
恋人を己のピアス、ネックレス、リングとして身につけて飾りたい加元としては、凝りたいワケです。
恋への恋も、ここまで来ると、目の前の相手の厳選作業ばっかりで大変ですね。

「やっぱり附子山さんが一番無難だったか」
減点に減点を重ねて、その愚痴投稿が相手にバレて、逃がしてしまった恋人を、8年前確かに持っていた筈のミラーピアスのことを、
加元は名残惜しく、思い出します。
ぼーっと見遣るカフェの外は雨。加元の手から逃げ出したミラーピアスが、花と草と木と共に愛した雨。
加元は、「濡れるから」と、ことさらに嫌いました。

そのひとは、顔とスタイルが完璧なひとでした。
そのひとは、心と性格が解釈違いなひとでした。
てっきり孤独で、手負いの狼かヤマアラシのような、鋭利で静かな野性を秘める人だと思っていたのに、
フタを開けてみれば、ただの花と雨と自然を愛し、誠実で優しい、ヘルシー料理なんか作るひと。
そこに目くじら立てて、「ここ地雷」、「それ解釈違い」と呟き倒したのがマズかった。

心と性格がどれだけ解釈違いでも、8年前逃したそのミラーピアスこそが、
最も加元を大事に想い、最も加元を尊重し、加元のために優しく尽くしてくれるひとだったのでした。

「会いたいな、附子山さん……」
SNSでの愚痴投稿がバレて、それっきり、加元の手から離れてしまった、8年前の恋愛相手。
しとしと、さめざめ降る秋雨を見ながら、
キープすべきだったのに、そうだと当時気付かなかった最高レアを、終了すべきだったリセマラ結果を、
加元は悔しがり、取り戻したがり、大きなため息を吐くのでした。

9/22/2023, 2:48:20 AM