穏やかな冬の海、黒い砂浜、満開の桜。
崖っぷち。
冷えた風が俺たちを冷やかすように強く吹く。
「やっとだね、私、待ち侘びたんだよ」
いつもの調子でそう言う彼に、俺は返事をするように笑いかけた。
恥ずかしくて、彼の顔は見ることが出来なかったけれど、きっと彼も笑っていたのだと思う。
靴を脱いで、ふたりぶんの遺書を靴の下に忍ばせる。
何度も見たドラマや映画とひどく似たものだったから、二人して「あの映画と同じだね」「あのドラマ、もう一度見たかったな」なんて軽口を交わす。
最後に、互いの口唇を軽く合わせる。
俺たちだけの、最高に情緒的で最高にロマンチックなシナリオ。
「それじゃあまた、どこかで。愛してる」
二人でそう言って手を繋いで、冷たい海に飛び込んだ。
芯から冷えて、指先から体温が失われる。
ああ、どちらかが先に眠りにつく前に、“愛してる”と言えて良かった!
11/2/2024, 10:27:22 AM