Mey

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生徒会の役員会を終えて、ひとりトイレを済ませてから昇降口に行くと、生徒会担当でもあるクラス担任が下駄箱にもたれて立っていた。

暗いから、女子高生を心配してくれたのかな?なーんて。
ひとりノリツッコミしてると、担任が怪訝な顔をする。
そんな訝しんで見なくても。

「雨降ってるぞ」
「え、嘘」

冬の陽が落ちて暗がりにぼんやりと光るライトに霧雨が浮かび上がる。
置き傘…は、先日、高校に教育委員会のお偉いさんが来るからと強制的に持ち帰らされた。
ないのがわかりつつ、担任に飽きられないように鞄を捌くってみるけど、無いものはない。

「天気予報は夕方から弱い雨が降るって言ってたけどな」
「…見てないもん」
「ちょっと待ってろ。置き傘を持ち帰らなかった生徒の傘がまだあるかもしれない」

担任はあたしを残して職員室の方へ向かって行った。

何のために昇降口に居たんだろ?
あたしが傘を持っているか確認するため?

んふ、んふふ。
妙な笑い声が漏れちゃう。
だって、優しいとこあるじゃーんって。

「なかったわ。他にも忘れた奴らに貸したし。生徒会の奴らと帰ってればなぁ」
むーーー
そうだよ、待っててくれればって一瞬思ったけど、私が言ったんだった。「先に帰っていいよ」って。

鞄を背負い直し、上靴を脱ぐ。
靴を玄関に置いたところで「ほら」と真っ黒な紳士用の傘が差し出された。

「え?」
「俺の。しょーがないから貸してやる」
「えっ、嘘!」
「信じないなら良いけど」
引っ込めようとする傘をガッと掴む。
「借ります!貸してください!」
「最初っからそう言え」
担任が傘から手を離す。

「でも良いの?」
「良いよ、俺は車だから。職員駐車場まで徒歩3分。生徒は最寄り駅まで徒歩15分。駅から遠いよな、この学校」
「先生もそう思ってたんだ。そう言えば先生、卒業生だったもんね」
「おぅ。電車に忘れるなよ」
「う、気をつけます」
「ああ。じゃあ。夜道にも気をつけて」

教師らしく優しいことを言って、担任が踵を返す。

「先生!ありがとうございます!それから、すみません!」
「えっ?」
担任が振り返った。

「3分でも、先生が濡れちゃうから」
「ばーか。男は良いんだよ。傘、明日返せよ」
「う、うん。さよなら!」
「ああ、また明日」

少しだけ笑みを浮かべて、担任は校舎内へ戻って行く。


昇降口を出て、傘を広げる。
「おっきい。そして重い」
軽さを追求する女性用の傘とは全然違う。

「でも、嬉しいな」
口は悪いけど、実は優しくて温かい人で、あたしは密かに憧れている。
だから、柄にもなく生徒会役員なんかやってるわけだし。


先生ともう少しお近づきになれたらさ。
こう言えたのかな。

ありがとうございます、それからすみません、じゃなくて。

「ありがとう、ごめんね」って。




ありがとう、ごめんね

12/8/2024, 4:00:34 PM