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「お願い叶えてあげようか?」
僕の前に現れた少女は黒いローブを身に纏っていてまるで、魔女や死神のような風貌だった。ローブの隙間から覗く髪は白く、瞳は天ノ川のように澄みきった川のような青に星が散っている。問いかけに考えあぐねていると、少女はランタンを掲げた。見た目通りの杖や鎌ではない少女の相棒であるそれは、青白い光、少女の瞳と同じ色を放っていた。

「このランタンは記憶を代償に願いを叶えるの」
「魔法のランプみたいだな」
「魔法のランプは三つまでだけど、これは記憶が有る限り無制限に使える」
「代償が、記憶だなんて重くないか?」
「なんでも、だから」

少女は淡々と答える。その声はあまりにも色が乗っていなくて、少女の感情が読めない。
じっとその瞳を見つめても身動ぎひとつない。完全にお手上げだ。脳内でホールドアップする。

「叶えて欲しい願いなんてないな」
「知ってる」

少女はボソボソと呟いたが、タイミング悪く吹いた風に掻き消され、何を言っていたのか分からず仕舞いだ。

「じゃあ、どうして未だにこんなとこにいるの?」

少女の問いに、なんでだろうな、と答える。すっとぼけているわけでも、誤魔化しているのでもない。ただ、なぜか、深夜になると僕はここ、学校の屋上にいた。 
実は僕は既に死んでいて、夜中になると現れる亡霊にでもなっているのだろうか。そんな妄想を繰り広げながら、僕はタバコに火を着けた。

「そろそろ、家に帰ったらどうだ?」
少女は首を振る。その向きは左右。

「契約したから」
「そう」

少女から目を離し、タバコへ集中する。吐いた息が夜空に消えていくのを見ながら、思う。
ああ、厄介なことになった。
僕は記憶を代償にこの少女に願いを叶えてもらった挙げ句、契約まで交わしたみたいだ。

11/18/2025, 2:02:38 PM