その日、仕事から帰ってくると、部屋の鍵が空いていた。ドアの前で今朝鍵を閉めたかどうかを熱心に思い出そうとしたが、徐々に鍵を閉めた情景が本当に今日のものかどうかが分からなくなっていった。ただ、私の住んでいる地域で空き巣事件は聞いたことも無いし、私自身ストーカーをされるほど魅力的な女性でもない。恐らく、何か考え事をしていて閉め忘れたんだと思った。
そう思いつつも、少し慎重にドアを開け、真っ暗闇の玄関の中で電気スイッチを探した。電気をつけると、それまでの恐怖はスっとひいていき、いつも通り夕飯の準備にとりかかった。時刻は既に22.00時で明日も6.30には起きないといけない。夕飯といっても、できる限り早く、多くを追求した名誉社会人フードだ。それを簡単に済ませると、風呂でシャワーを浴び、その他残りの家事を無心で行った。1DKのため、寝室と生活スペースを兼用していて、実家暮らしに慣れていた私にとっては、秘密基地のような感覚があった。
リモコンで部屋の電気を落とすと、私は今日の仕事について考えた。もっと上手いやり方があったとか、あれは私の責任ではなかったとか。そして、漠然とした将来への不安が頭によぎった。何歳までに結婚するべきか、そもそも結婚はしないといけないものなのか、果たして私が出来るのか。そんな事を考えていると、どんどん睡眠から離れていってる感覚がした。まるで、海底にあるベッドから息づきのためにうるさい地上に近づいてるみたいに。
諦めて、リモコンで電気をつけ、体を起こしてみると、玄関の前に人影があった。ギョっとして、体を硬直させたまま、目を凝らしてみると、そこには白い髭を生やした、老人が私の方を向いて立っていた。先が白く丸い、赤色の三角帽子に、赤色のベルベット生地のジャケット。ジャケットの中心は白いボアの生地で両側の赤の境界線を生み出していた。そして、やはり赤と白のズボンに長い黒のブーツ。白いずた袋を肩から下げており、袋は中に入ってるものに押し出され、所々角張っていた。
私は急いで、携帯の電源をいれ、今日の日時を確認した。
『12月25日 水曜日』
やれやれ。
3/2/2025, 3:37:33 PM