お題「風に乗って」
あなたからの、手紙が届いた。
安っぽい紙に綴られた、ぎこちない文。
あなたが苦心しながらペンを取る姿が、目に浮かぶ。
写真の一枚でもつけてくれればいいのに
私はささやかに笑い、呆れ、目をこすった。
私は顔を上げ、膝を抱えて、遠くを眺める。
どこまでも真っ直ぐな、水平線。
海と空を分かつラインは、昨日も今日も、変わらずに。
日の光は穏やかだけど、温かくはない。
波音を含んだ潮風が、私の髪を攫い、耳を撫でた。
私を置いて、出ていったあなた。
意地っ張りな私は、引き止める事も出来なかった。
一人きりの夜風はつめたいけれど、
こうして、あなたからの手紙が届くと、
後悔していた気持ちも、薄らいでしまう。
自分でも、都合のいい頭をしているなと、思った。
私は海風に問いを投げる。
あなたは今、何をしていますか?
体を大事にしてくれていますか?
見知らぬ土地で、不自由していませんか?
私の事も、たまには思い出してくれていますか?
春風と共に旅立って
南風に急かされ足を早め
秋風に少し体を休めて
北風が吹いたら、帰って来てほしい
無意味に彼方に視線を向けては、今日も、あなたの姿を思い浮かべてしまう。
あなたは勝手な人だ。
風に呼ばれ
風に誘われ
風に煽られ
風に乗って
でも、そんな人だから、私は今でも待っていたいと、思ってしまうのだろう。
あっ
不意の突風が、手元をさらった。
あなたと繋がっていた薄い用紙は、天高く舞い上がり、やがて、海の向こうにかえっていった。
風が凪いだ
蜃気楼に乗って浮かんだ船が、遥かに、ぼおおっと汽笛をならした。
4/30/2026, 8:59:37 AM