駒月

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 “化け物”と呼ばれていた私には、親しい友人がいなかった。
 人の心がわからなかった。
 皆どうして平気で人を陥れるのだろうか?
 皆どうして私が楽しいと思うことが楽しくないのだろう?
 人らしく振る舞おうとしても、何処かずれていて。疎外感の中で生きてきた。

「今日から貴殿──否、お前が俺の部下か」

 突然現れた年上のいかにも堅そうな男は言った。
 話には聞いていた。新しい部隊を作ると。
 その男は見た目通り真面目で、真っ直ぐで、嘘がなかった。

「やはりお前は人間だ」

 温かい言葉をくれた。
 私が間違ったことをすれば叱り、面白ければ笑い、そうして共に過ごす時間はかけがえのないものになっていった。
 価値観は違うことも多いが、私を人として扱い接する……そんな男に惹かれていくのは自然なことだった。きっと異性ならば恋でもしていただろう。

 ──そして、男の訃報を聞いた。

 戦場から亡骸すら帰って来ない。
 絶望の中、私は人を殺して食らい続けた。
 何を悲しむ必要がある、かつて化け物と呼ばれていた頃に戻っただけだ。ほんの少し、楽しい夢を見ていただけなんだ。
 何年もの楽しかった日々が思い出される。
 心と心を繋いだあの温かさが、今はひどく愛しい。

「ああ、君がせっかく……私を人にしてくれたのに」

 ごめん、と血溜まりの中で涙を流した。




【心と心】

12/12/2023, 2:27:27 PM