雪の静寂
音のない傘はどこか頼りない。
雨とは違い雪は降り積もる。ただ傘をさしているだけではダメなのだ。歩かなければ。自分の脚で歩かなければ、いつか埋もれてしまう。押しつぶされてしまう。そんな息を詰めるような圧迫感。だから僕はささやかな抵抗として雪を踏みつけて歩いてきた。
「この世界に2人っきりみたいだね」
同じ傘の下で君が呟く。静かに雪が降り続いている。二筋の白い息が、雪の合間を縫って虚空にほどけていく。
「風邪ひくから帰るぞ」
「ちょっと待ってよ! もう、風情がないんだから」
慌てて君が戻ってくる。ぶつくさ文句を言いながらも、少しでも新雪を踏むまいと頑張っている。
「って、聞いてる?」
「うるさいほど聞こえてます」
がみがみと噛み付く声を聞き流し、そっと柄を握り直す。
今はただ、音のない傘が心地いい。
12/17/2025, 2:22:57 PM