たろ

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【優越感、劣等感】

※閲覧注意※
オメガバースっぽい表現があります。
巣営(巣作り)中の表現があります。
幼馴染たち、IF世界線。
トラウマ体験あり。



好きな人の匂いに包まれて、あれはこっち、これはココ、と。
きっと喜んでくれると思って、大切に作った巣。
「誰が汚して良いっつったよ、あ?このクズが!」
怒声が降りかかって、無残に破壊された。
「さっさと片付けろ!やり直しじゃねぇか!巫山戯るなよ、テメェ!」
頭頂部に衝撃が走って、鈍い痛みがゆっくりと広がる。
「早く洗濯しろ!きっちり片付けとけ!」
何が起きたのか分からず、目を白黒させていると、肩口をどつかれる。
「…っ、あ。ご、ごめんなさい。」
見上げた相手の目は血走っていて、鬼瓦の様な形相をしていた。
ノロノロと動きの悪い身体を引きずって、洋服の山を抱き上げて、洗濯機がある脱衣所へ向かった。
その人とは、二度と会う事はなかった。


暫く立ち直れず、どんなに好きな人であっても、本能のまま動いてはいけないのだと身を以て理解した。
そうして、本能を抑えるだけ押さえ付けて、ふん縛って、隠しおおせる必要最低限度に留めて、何とか誤魔化していたら、ふと意識を失っていた。

そんな時だった。
あなたに再会したのは。
「かっちゃんが作るおうち、見てみたいなぁ。…いつか、お呼ばれしたいっ。」
あなたは賢くて、根気良く優しく接してくれた。
「あ、オレので良ければ、何でも使って!ココにあるものは、全部かっちゃんの好きにしちゃって大丈夫!パッチワークみたいにバリバリに千切っちゃってもオッケーだから。」
そう言ってクローゼットの中身を見せてくれたあなたは、とても嬉しそうにしていた。



ドア越しに、あなたの声がする。
「ね、かっちゃん?少し休憩しない?寝食忘れちゃってない?キリのいいところで、おやつにしませんか??」
ようやく、ぎこちないながらも落ち着いて巣営できるようになってきた。
「あ、追加資材を置いていくね!素材のリクエストがあったら、教えてね。」
ドアの向こうでガサゴソと音がして、洋服がドア越しに山積みになった状態で、部屋の中に入って来る。
「あと、おやつの差し入れ置いていくね!」
ズルズルと床を滑る音がして、ドアが閉まった。
「―っ、あ。ありがとう。で、出来たら、呼ぶからっ!」
あなたの優しい匂いに包まれて、フワフワと夢心地で追加資材の山に頬をうずめた。
(…幸せ。)
毎回、どんな物が出来上がるのか楽しみにしてくれている優しい人。
「ふふっ、楽しみだなぁ。」
ドアの向こう側で、大きな独り言が零れ落ちたのが聴こえた。

7/13/2024, 2:34:19 PM