『星座』2023.10.05
昔から星を見ることが好きだった。故郷から見えるのは南十字星座、みずがめ座、みなみのうお座、はくちょう座も見える。宝石を散りばめたという表現がふさわしいぐらいに美しい星々が見ることができる。
見るだけでも楽しかった。あれはなになにという星で、と勉強するのも好きだった。だから、オレは宇宙飛行士になった。
宇宙飛行士になったのは単純に星が好きだからという理由と、地上で見ているだけだった星座を近くで見たかったから。
「子どもの頃、星座は星座の形をしていると思ってたんですよ」
そう音楽家と同じ名前を持つ先輩宇宙飛行士に話かける。
「線で結ばれてて、わかりやすい形をしてるのだと思ってました」
「それはなかなかメルヘンだなぁ」
彼は微笑ましそうに笑って、計器の数値をチェックしている。今は、火星への航海の真っ最中だ。他のクルーたちはすっかり眠ってしまっていて、今起きているのは自分たち二人だけだ。
「ということは、土星もサークルがあると思ってたりしたクチだな?」
「イエス。天体望遠鏡で見るまで知らなかった」
彼はオレの言葉にそうかそうかと頷いて、すっと指を指した。
「あれは何に見える?」
彼の指した方向には、火星とは違う赤い星と、明るい星が三つ並んでいた。
「オリオン座ですね」
「そう、オリオン座。大きく見えても火星より遠くにあるんだ。それでも星座と認識できている。なぜだかわかるかな」
「知識として知っているからですか?」
オレがそう言うと、彼はおおげざに肩を竦めて、ハズレとでも言いたそうな顔をした。
「ロマンを忘れたら宇宙飛行士失格だよ。いいかい、なんであの星たちを星座と認識できるか。それは簡単なことだ。俺たち宇宙飛行士は生粋の星座オタクだからだ」
得意げに彼は言って、目じりの皺を深くした。
おそらく渾身のジョークのつもりなのだろうが、残念ながらオレは彼と同じ宇宙飛行士だ。それはそうかも、と頷くことしかできない。
窓の外に広がる星々。あれはふたご座、あれはおうし座、あれはぎょしゃ座。
一つひとつ指を差していき、無いはずの線を結んでそこに星座を作った。
10/5/2023, 12:27:00 PM