ささやき
君が扉を閉めたときの音が、
未だに耳の奥で、
繰り返し、響いている。
言葉は、刃よりも鋭く、
傷は癒えることなく、
心の奥深くまで、沁みていく。
あの日、道を違えたのは、
私と君――どちらだったのかな。
それとも。
正しさが、二人を裂いた。
ただ、それだけのこと、
だったのかもしれない。
君の背を追わなかった理由を、
今も探している。
愚かにも、あの時の私は、
立ち去る君を、見送ることで、
愛を示せると思っていたんだ。
ねえ。
あれは幻だったのかな?
私たちの時間も、
触れた指先も、
交わした約束も、
誓い合った未来さえも。
堕ちるように、恋をして、
溺れるように、誰かを抱く。
偽りの吐息に紛れて、
私は、君を忘れたふりをしてる。
でも、どれほど、
誰かの唇に触れても、
誰かの声に名前を呼ばれても、
誰かの温もりに身を重ねても、
私の心は、君の輪郭を、
濃く、濃く、なぞるだけ。
夜の底で、今夜も、
ささやきが聞こえる。
「…愛してる。」
君を離せないままの私は、
独り、君への想いを、
夜の帷に揺蕩わせる。
その、ささやきは、
朝の陽を見ることもなく、
静かに、溶けてゆく。
4/21/2025, 6:08:14 PM