そこ

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砂漠という土地があるとその男は言った。
昼日中は火傷するよう熱い日差しが降り注ぎ、夜には凍りつくような冷たい風が吹くその場所は、水が奥深くに隠されてなかなか見つからないらしい。夢のように美しいところだと。
そこには何があるのかと尋ねると、砂があるという。砂と風とほしと正反対の気温がある、と。
砂とはなんだと尋ねると答えるのが難しいと言われた。では凍りつくとはと聞くと、きみのはるか下にある厚いかたまりのことだと答えた。
氷と寒さは非常に近いらしい。ならば私は氷も寒さも知っている。氷は底にある触れないほうがいいもの。近づくと鱗が固く収縮する。それが寒さだろう。
男はそうだねと言った。そしてわたしが向いている方向を指差した。あちらは何がある?
私が答える番だった。あちらにはミカナキキバどものすみかがある。危険だ。行かない方がいい。奴らは獰猛だ。
ぼくと似た形を見たことはある?
見たことはない。だか、似たものがミカナキキバどもに連れていかれたと聞いた。喰われたんだろう。
きみはきみと同じ形、つまり同じ種族のものが連れていかれたらどうする?
どうもしない。奴らには勝てない。
男はしばらく黙り込んだ。
君たちはある程度の知能があるのに、生きるためだけにしか使わないんだね。それが正しい在り方かもしれないけれど。
生きるのは当たり前のことだ。獲物を喰らい、子を成す。それが以外に何がある。
男は行った。戻ってこなかった。喰われたんだろう。
それ以来、私は夢を見るようになった。
夢とは何か、それは視界を閉ざして獲物を食ったあとのような気分になること。そう教えてもらった。
夢の中、私は砂漠にいる。熱いと日差しも分からないが、氷と寒さは知っている。風も知らない。気温も空も夜も昼も朝も。男と名乗った奇妙な形のものがなんだったのかも。
男が戻ってきたらいい。もっと砂漠のことを教えてもらえる。しかし無理だ。
夢を見ることができるようになった。時々視界を開くのが嫌になるときがある。初めての感覚だ。できることなら、ずっと砂漠の夢を見ていたい。
男も同じように夢を見ていればよかったのに。

1/13/2026, 4:43:15 PM