わをん

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『海へ』

瞳からこぼれる涙からほんの僅かに海の香りがする。体を巡る血の流れからほんの僅かに潮騒の音がする。海のない国に生まれ、海のない国の戦場で仰向けになって死を待つ自らの体に人が海から生まれた名残があることに今さらながら気がついた。重たさを増すまぶたに抗えず意識を手放す間際、空の青さに一目見ることもなかった海の青さを重ね合わせる。いつかは海というものを見てみたかった。海のない国で生まれて、国を出ることなく死にゆくときに思ったことはそれだった。

8/24/2024, 12:46:36 AM