目を開けると、いつもの場所なのになぜか毎回「ちがうよな、これ」という気持ちになる。自分の服は変わらず、外に見える光景も同じなのに。
なあ、と空に声をかけると「はい」と女の声が聞こえた。静かに襖が開いて女が頭を下げて入ってきた。
いつも起きたあとに世話をするのは少年のはずだったのに。お前誰、と聞くと「わたしは127代目の『世話係』です」と返事が来た。
「……前にいたのは、何代目?」
「記録によれば、完全に覚醒されたのは68代目だったようです。寝言を聞いたものはほかにもおりますが」
今回の眠りはだいぶ深かったらしい。おれが会いたかった男は転生したのか、と聞くと「まだでございます」と言われた。
初代世話係となった男は短命だというのにおれに一生を幸せにすると言った。最初の方はおれも馬鹿だったので彼のことを突っぱねてしまったのだった。彼と一緒にいることが楽しい、と気づいた瞬間には彼はもう人間で言うところの中年期とかいうやつで、彼の残りの人生はおれにはあまりにも一瞬で時間が過ぎるのはとてもはやかった。
彼はまたおれに会いに来ると言った。子孫たちにあなたを世話させる、と。おれにはそんなものいらなかった。ただ彼と一緒にいたかった。本当は彼の番になって彼のことをすべてもらっていきたかったけれど、彼には人間の女の妻がいて、おれは割って入れば彼にもう会えないだろうと思った。
妻になった女はおれの世話係をすると言ったが、おれは悲しくて悲しくてとてもじゃないがこの女の顔を見ていられないと眠りについた。次に起きた時、世話係だと名乗る子どもがいた。初代の彼のやしゃ孫という少年はほんの少し彼の面影があった。
おれは起きたほんのつかの間に彼らの面倒を見た。人間はすぐに死ぬのでおれにとっては刹那のようなものだったが、彼らとの時間はそれなりに楽しかった。その時に出会った世話係が亡くなると悲しくってまたどうしようもなくなって寝ることにしていた。
そうやって続けていたら、とうとう127代目になったらしい。初代の彼はまだおれに会いにこない。
「なあ、おれは彼に会えると思うか」
女の世話係は初めてで、動揺していた。思わず漏れた言葉に「いや、」と否定しようとして女がじっとこちらを見ていることに気がつき何も言えなくなった。
「眠っておられるあいだ、初代と思われるような方がいらっしゃいました」
「は」
「ですが、彼は眠るあなた様を見て『起こすのはしのびない』と笑っておられました」
あなたが起きる前、つい昨日、墓に骨を埋めてまいりました。
それから何をしたのかよくは覚えていない。ただ気づいたら墓場にいた。墓をのぞけば幾多もの人の骨がある。自分は今度はそこで眠ることにした。今度こそ、手放さないと思った。
4/28/2023, 10:41:26 AM