規範に縛られた軟弱根性無し

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もうすぐ同棲中の彼女の誕生日になる。彼女の誕生日が近づくとやたらと貧乏ゆすりが多くなってしまう。なぜって?それは…
「今年もこの時期がやってきたね〜?またプレゼント選んできてね!」
と俺の顔をまっすぐ見て、ニッコニッコでふっかけてくるからである。
「も、もちろんだよ。楽しみにしてて…」
この時期はテレビを観ようが本を読もうが気の紛らわしようがない。
今年で5回目になる。過去の4回はなんだかんだ彼女の良い笑顔が見れた。それは彼女がちょっとしたヒントをくれたからで、そのヒントをもらうたびにわかってあげられない自分が嫌になる。彼女は本当は俺を弄んで嘲笑っているだけなんじゃないか?とも考えてしまったことがある。
俺は彼氏失格なんだろうか。こんなんじゃ誰1人幸せにしてあげられないだろう。恋人だからと言う理由で完璧に通じ合えるはずない。漫画やアニメのように上手くいくはずない。
「そんなに深く考えないでよ〜。君の選んだプレゼント全部気に入ってるんだからね?」
「あ…あぁ」
俺の心情を見計らってか、俺を安心させてくれる。でも正直怖い。彼女の悲しむ顔、もしくは激怒した顔なんて見たくない。いつでも隣で無邪気に笑っていて欲しい。
「今回はヒントなしだよ!頑張ってね〜」
テーブルに頬杖をついて、俺にキラキラした期待の目を向ける。俺はその目に押しつぶされそうになりながらじっくり考えた。

誕生日当日。普段よりもちょっぴりオシャレして街中でデートした。でも、俺はプレゼントのことが気が気じゃなくてちっとも楽しめなかった。
ちょっと高めのレストランでディナーをとり、薄暗い夜道をビクビクしながら家へ帰った。手を繋いでいたので、俺の震えは彼女にも伝わっていたと思う。彼女は俺になんて言葉をかけるべきか迷っていたようで、結局無言で歩いた。

ダイニングテーブルを挟んでお互い腰掛けた。
「さぁ〜!プレゼントの時間だ〜!」
俺の心情とは裏腹に、彼女はいつになくハイテンションで少し疲れを感じる。
「わかってるよ…」
「なっにかっななっにかっな〜♪」
覚悟を決めた。
「ど…どうぞ、プレゼントです」
手のひらサイズの小さなプレゼント箱を取り出し、開けて見せた。
「これは…!指輪⁈」
金色のリングに宝石がキラリと光る。アクセサリー用の指輪だ。
「どう…かな?」
鼓動が早くなって、プレゼントを持つ手が震える。明るい部屋なのに視界が暗くなっていった。
「う〜ん…惜しい!結構かすってるね〜。でも嬉しいよ?もちろん」
「そ、そっか…」
非常に微妙な反応で心底がっかりした。どうせだったらひどく拒絶して欲しいくらい。
「私が本当に欲しかったのはね〜?コレ!」
そう言うと彼女はバックからピンク色のクリアファイルを取り出した。
「…何?それ」
「えへへ…」
彼女が中身を引っ張り出した。
「じゃじゃ〜ん!コレだぁ〜!」
「それって…待って、そんな!」
「婚姻届〜!」
彼女は無邪気に笑って、首を斜めにして見つめてくる。その頬は赤く熱っていた。
「もう結構長く付き合ってるでしょ?だ、だから…その、そろそろ結婚したいな〜…なんて思っちゃって」
自然と涙が溢れ出てきた。
「うっ、ううぅ…」
「ち、ちょっと!泣かないでよもう〜」
彼女が椅子から立ち上がって側に来てくれた。そしてぎゅっとしてくれる。
「そんなに嬉しかった?」
「俺…ちゃんと愛して…もらってたんだね」
「何言ってんの?もちろんだよ〜。好きじゃなきゃこんなに長続きしないよ〜」
陽光に照らされるように心もう体もあったかくなる。これが幸せというものなんだと思う。
「ごめんっ…ごめんねぇ?」
「困った子だな〜。なんで謝ってるかわかんないけど…まぁ、大丈夫だよ?よ〜しよ〜し」
2人で存分抱き合った。気づいたら1時間以上抱き合って、俺は安心させられていた。
「さっ!早速婚姻届書こ?」
「うん!」
2人でくっついて、笑って、時折キスしちゃったりしながら書き進めた。

7/21/2024, 12:06:34 PM